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[コメント] 東京物語(1953/日)

礼儀作法と『嫌なことばっかり』で中毒。
蒼井ゆう21

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







初めて見た時は、ただ退屈で眠くなるばかりだったけど、 最近また見たらなんとなくその素晴らしさがわかってきたような気がした。

まず、礼儀作法。老夫婦が原節子の家に来た時に、原節子は店屋物をとり、『おいしくないでしょうけど』と言い、二人にだす。そして二人はいや、構わないでください、と断った後、もう一度原節子の勧められると、「そうですか」と食べ始める。このとてもきっちりとやられた形式的なやりとりが興味深かった。これはとても形式的だけど、同時にとても洗練されていて、ただの形だけ、うわべだけ、といったようなものとは違うものだと思った。

そして演技。原節子の演技などは、リアリティがあるように思えない。ほんとに日常生活している人がするようなものとは全く別だと思う。見ていてこそばゆいというか、恥ずかしい。。だからといって、劇のような演技ともまた違うように思う。その間にあるものか、それともその両者とも関連のない別のものなのか。でも、その演技にはとてもひきこまれてしまうものがあった。何回でも見たくなるような中毒性を帯びたもの。

例えば老父夫婦に対する杉村春子の態度に怒って、教師やってる人が原節子に文句たれるシーン。それに対して原節子はただ笑顔(またそれはただの笑顔でもないと思うけど)で「しょうがないわよ」「そういうもんなの」と答えるだけ。そして「嫌な世の中ね」というと、『そう嫌なことばっかり』と笑顔で答える。それを見て、その人は何も言えなくなってしまう。そして同じように「嫌な世の中だ」と思ってた僕もそれを見て何も言えなくなってしまった。理屈を超えた何かは、時に理屈を超えてある種の納得をもたらすように思う。僕は見事にあの笑顔にやられてしまった。 原節子のあの「笑顔」に出会えるだけでも、この映画は見る価値があるように思える。そして世の中嫌になったら、また原節子さんの笑顔にやられてしまおうと思う。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)けにろん[*] tomcot

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