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[コメント] BROTHER(2000/日=英)

5人の弟たちの物語と銃撃のバランスがまずい。
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







山本と、彼をアキニと慕う弟分たちとの関係が面白い。

最もアニキを慕っていたのが加藤。自分だけがアニキの側で役に立ちたいのに、アメリカのアニキは実弟(でもなさそうだが)ケンならともかく、それ以外のわけのわからない連中にとりまかれていて自分は居場所がない(スリーオンスリーが象徴的。というか説明的)。アニキの女にまで嫉妬する。山本のそばという唯一の生きる場所を失った加藤が死に場所を求めるのは当然。加藤が白瀬に接触するのは更に居場所を失うことになるわけで、アンタのために身を引くといいつつ心のどこかでうらんでいるオンナの心情のようだ。白瀬と組むことがあまりいい結果を生まないことを本当は知っている。

山本と白瀬は傍から見れば「お前らそっくりじゃん」というところと、当人同士まったく相容れないところが同居している。好きとか嫌いとかいう以前に、ともかく一緒にいる(ことをある意味押しつけられている)関係…これは血縁関係の兄弟と同じ。口をきけば必ず喧嘩だが、どっちか出て行けというのでもない。ただ普段顔も合わせない。

誰もが最初にタイトルから想像するのはケンだろう。ケンがハンパな悪党になっていることは、唯一の肉親として育った山本にとってはあまりにも失望が大きかったのか?(もちろん身勝手な期待なわけだが。)再会以来ケンのことを最後まで一顧だにしない淡白な関係に描く描き方には感心した。

山本が劇中唯一本当に怒っているのが、親の仇のもとに身を寄せようとしてわびを入れる大杉蓮(役名忘れた)に対してだ(他の場面では「威嚇」である)。ここで山本が最も大切に思っていることがわかる。捨て子だった山本にとって組のオヤジは、自分の中で最も大事な絆であり、存在理由であり続ける。大杉蓮もそのことを知っているから山本には二度と自分の面は出さない(アメリカへは加藤のところへ手紙をよこす)。歳も近くお互い最も理解しあっている兄弟。

そしてデニーこそアニキがもっとも可愛がった弟。彼には家族があり、家族を大切にしていたからだ。山本が家族の絆を最も大事に思っていたことは間違いない。弟たちが多かれ少なかれ何らかの利を感じて山本と結びついていたと考えた時、もっとも自分に見返りを求めない存在に感じたからだろう。他愛のない賭け事でもっともアニキにせびっていたように見えて。家族や兄弟の結びつきは無償の愛の関係だろ、というのがアニキの言いたかったことだと思う。

…なんだとは思うんだが、どうも過度の銃撃戦がドラマの気を削いでしまった気がする。たけしが暴力を描くとき、こぶしや物で殴ったりすることにこだわるのは、一般人にも理解できる痛みだからで、ふつう撃たれる感覚はわからない。フィクションにおける銃撃のアプローチというのを考えて見ると、1)まず痛みをわからせるやり方として、弾に登場人物たちの意志を込めさせるというのがあると思う。そこにいたるまでの感情を描写し、それが凝縮されたものの頂点として発射される。本当に燃えるガンアクションがこれだろう。2)逆に痛みが伴わないからスポーツとして見せるということができる。多少強引に括ればハリウッドアクションぽいもの。3)そして痛みの伝わらない無機質さで、いとも簡単に訪れる死を際立たせるのが、一種のポエジーともなるような銃撃という描写も捨てがたい。銃の本質を描いているとも言える。たけしの銃撃シーンは最後の種類のものだと思うのだが、それは2番目のスポーツのように量を撃てば撃つほど盛り上がるってもんでもなかったんだと思う、きっと。ラストは「ああウェスタンやりたくなっちゃたんだな…、金渡して「これは修理代だ」はないよな…昔のたけしなら押したトビラが跳ね返って目にあたるギャグのところだよな…」と哀しい気分。量の割にかっこよかったシーンは、スナックで親分を撃とうとバーテン(『Dolls』で深キョンの追っかけをやった人では?)が、控え室で銃を準備した瞬間たけしに後ろから頭を打ち抜かれるところくらい。ベースボールの本場でたけし監督がついいつもの野球でない、じゃんじゃん打ちまくる野球をやりたくなって残塁の山を築いてしまったという感じ。こんな凡試合もたまにはあるか。

(評価:★3)

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