[コメント] ブラックホーク・ダウン(2001/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
「RPG!」と友軍に注意を喚起するための叫び声、すると“機敏にさえ動けば回避できそうな”スピードでロケット弾が飛んでくる。飛び交う銃弾、巻き上がる土煙、血飛沫、一瞬で入れ替わる生と死! 撃墜されるブラックホークには、いったいどうやって撮ったのか不思議なくらいリアリティがあり、これはまさに“映画でのみ再現しうる”リアルな戦争である。
一つ興味深いと思ったのは、ソマリア民兵の用いるRPGの威力の凄さ。本来ブラックホークは「強いアメリカ」の象徴でなければならないはずなのに、いとも簡単に撃ち落されてしまう。なんでこんな無防備に鉄の固まりを空中に晒しておくのだろう?と思えるほど。これは「強いアメリカがダウンする」という衝撃を根底にしているはずなので、映画の構図の成立を危うくしていると言える。映画自体は、ストーリー性や解釈を極力排除し、戦争の現実を事実に忠実に(映画的に、ではあるが)再現する作りになっている。だがどちらかと言えば、アメリカの立場に寄って作られており、この惨劇も米軍の驕り高ぶりが招いた事態であるかのように描かれている。しかし、ソマリアのRPG保有台数やその行使能力を米軍が過小評価していたことは間違いないと見える。そしてそれは、ソマリア側がそれらを敵の目から隠しおおせたことを意味する。つまり、事前の情報戦において、ソマリアの方がアメリカより優位に立っていたということになる。
しかしながら、なんでソマリア側がこんな戦争を仕掛けたのかについてはまったく疑問だ。皆様ご指摘のとおり、19:1000という圧倒的な死者数の差にもそれは現れている。これがどういうことかというと、目の前で同胞が撃ち殺され、肉片と化して飛び散ることをものともせず、たいした武器も持たないまま次から次へと突進していくということである。まさにショッカーの手下の如しで、「ヒーッ!」とか叫びながら行ってくれたら(以下略)、これを勝利と呼べるだろうか? むろん、結果的にアメリカに手を引かせたことは大勝利なのだが、彼らがそんなことを考えながら突撃していったとはとても思えない。そこに見てとれるのは、“強き者”アメリカに対する直截な憎悪であり、勝手に押しかけてきて我が街を破壊する、第三者の理不尽な横暴にたいする剥き出しの敵意である。
私には、世界一の強国たらんとするアメリカが、その代償を支払わされているように見えた。決して安くはない代償を。これを観れば、どんな好戦主義者も何かを感じずにはいられないだろう。リアルに戦場を再現した映画が反戦映画となりうる可能性は、こういうところにあると思う。
85/100(02/08/10記)
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (4 人) | [*] [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。