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[コメント] 交渉人(1998/米=独)

没交渉人。
G31

 公開当時、日本の配給会社は確か、IQ180同士の闘い!みたいな宣伝をしていた。でも要するに(例によって)そういう映画ではない。頭の超良い人間同士が、相手の思考を上回る思考力で互いに先読みしまくったり、誰も予想つかない臨機応変な作戦展開で互いの目をくらませたりする、という話ではない。

 むしろ交渉人とは、ある型にはまった回路の思考訓練を積んだ人間。むろん頭も良くなきゃ務まらんだろう(顔は良くなくても務まるだろう)が、人より多く研鑽を積み、場数も踏んだダニーは、同じ職業の同じように優秀な人間=クリス(ケビン・スペイシー)なら、正反対の立場からであっても同じように思考を積み重ね、同じ着地点に到達するはずだと考え、そこに活路をみたというか賭けたという話になっている。研ぎ澄まされたプロフェッショナル同士であるがゆえに、対立した立場から結果として共同作品を作る、ないしは作れるかどうかという話なのだ。

 だからダニー役のサミュエル・L・ジャクソンがつけた演技も、すべての手数を読み切った余裕綽々の予言者のようではなかった。どうなるか分からないという不安と焦燥を常に抱えてみえた。彼ほど優秀ではない同僚の交渉人を、罵倒し、愚弄し、虚仮にする陰湿なシーンがあるのだが、彼の心境をそう考えることができれば、このシーンも受容できるはずである(かもしれない)。

(21/4/26記)

(評価:★4)

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