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[コメント] 真昼の暗黒(1956/日)

日本司法界の非人間性は、ゴジラより大きな力で人間社会を叩き潰す(伊福部の音楽も良)。世の中に、絶望というものがあることを思い知らされる。
G31

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 それまで、息子(清治=草薙幸二郎)を信じ、弁護士(近藤=内藤武敏)の能力を信じ、法曹界をもその中に含む人間社会の性善を固く信じ、息子の無罪放免を確信していた母=飯田蝶子が、高裁の非情な判決の後、面会室の金網越しに息子の姿を見て、言葉を失ってしまう。これまで自分の信じてきたすべての力がまったく太刀打ちできない、どす黒い何かがそこに立ちはだかっていることに気づき、愕然としたからだ。やっとの思いで声を振り絞り、「清治・・・。」と声を掛けたが、その声のあまりの力の無さに、そしてそれが息子にも伝わったことに、自分でいたたまれなくなって、その場を逃げ出してしまう。彼女のような善人にとって、息子が獄中にいることより、その息子に「母はもはや自分を信じてくれていない」と思わせてしまうことの方が、はるかに耐えがたい悲劇だったからだ。

 走り去る母の後ろ姿に向かって、清治も母の想いを察したのだろう、こう声を掛ける。「お母さん!まだ最高裁がある!まだ最高裁があるんだぁ!」

 そう。まだ最高裁があるから大丈夫。そんな風にはまったく思えない科白だった。清治だってそんな風に思ってるわけないのだが、母の手前、そう言ってみせたにすぎないのだとしか思えなかった。まるで絶望の淵から響いてくるような叫びだった。法曹界に巣くう非人間性は、ゴジラなんかよりもはるかに大きな力で、人間社会をたたき壊したのだと思わされた(伊福部の音楽も良かった)。この世に絶望があるという事実に突然向き合わされ、まったく暗澹たる気持ちにさせられた。なんてことをしてくれるんだ今井正は、と恨みに思った。

90/100(11/01/09記)

(評価:★5)

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