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[コメント] 罪と罰(1983/フィンランド)

アキ・カウリスマキの劇映画ファーストカットは、若いゴキブリを包丁で切るショットだ。「虫けら」のイメージは最終盤の科白でも出て来る。
ゑぎ

 クレジットバックは食肉加工工場で働く主人公のラヒカイネン−マルック・トイッカとその友人のマッティ・ペロンパー。英語歌詞のシューベルトのセレナーデが流れる。解体される肉のショット。シャワーで作業台や床を洗う。流れる血液。本作は血の映画だ。死体の血に触る。それをハンカチで拭き、血液の付着したハンカチは重要な小道具になる。あるいは、血の付いた床のことが気になる。もっとキャッチーなのは、ペロンパーが唐突に「血のことだろ」と云う場面だ。こゝはちょっとワザとらしいか。

 しかし、画面造型、演出のタッチはもう最初からカウリスマキはカウリスマキだったんだなぁと感じる。いや、もうほゞ出来上がっているじゃないか。つまり、このナラティブ・デビュー作の時点で、彼の演出は完全に「映画」のそれだということだ。ただし、現在の演出基調との多少の差異は指摘することができる。特に、本作の時点では、ずいぶんとカメラを動かしていることに気づくだろう。それはパンやティルトだけでなく、会話シーンで人物−例えばペンナネン刑事−エスコ・ニッカリにドリーで寄るショットがあったり、ヒロインのエヴァ−アイノ・セッポへ回り込みながら正面に移動するショットがあったりする。あるいは、主人公が夜の町などを歩くシーンの横移動、エヴァが家から出て来るショットはクレーンかと思うような移動ショットまであり、かなり動的なカメラワークが目立つのだ。

 また、人物の会話シーンにおけるバストショット以上に寄った(肩なめショットではない)切り返しも、もうバッチリ決まっているのだが、本作では寄り過ぎ(アップ過ぎる)と私には思える。こちらの方が、近作にはない特徴としては目立つかも知れない。あと、主人公が自室に戻ると刑事が待っているというシーンで、廊下を歩くショットがダッチアングル(斜め構図)になっていて驚いた。驚いた、ということであれば、終盤で、主人公が刑事から激しい暴力(しかもかなり理不尽な)を受けるという厳しい演出があることも書いておきたい。

(評価:★3)

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