[コメント] 阿修羅のごとく(2003/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
昔の前後編の総集編からTVドラマの映画化まで、映画にダイジェスト版はつきものだが、この企画で成功作というのはあるのだろうか。そもそも長大なテレビのホンを二時間に纏めるのが無理という処から始まって方法論が求められるのであり、クライマックスだけ数珠繋ぎにして一本出来上がりでは面白くなる訳がない。TVのほうが面白いよねと客に云わせる企画は映画の冒涜ではないのか。
比較的いいのは、それなりに時間かけて造形されている三女深津絵里。父仲代達矢と同居をはじめた深津のフィアンセ中村獅童が、仲代と親しくなりたいと興信所勤めで自分が調査した彼の浮気をばらしてしまう件が白眉で、仲代の笑うしかない反応が絶妙だった。父娘の煙草販売機前での別れも坂道をじっくり撮って古典的な結婚喜劇。深津が前半で眼鏡かけて後半で外すというよくある造形は、眼鏡の女性をなめているように見えるし、中村獅童の『どですかでん』の伴淳みたいな顔面神経痛(後半やめてしまう)も何だったのかよく判らない。しかし他に比べればマシであるから、深津だけ深掘りしてほかの三人は略するべきだっただろう。
あとは無残。何のタメもないクライマックスの演技合戦が連発される。TVならそれぞれ30分枠の山場を構成するような件を延々垂れ流すのだからたまらない。女優陣が肩怒らせて張り切って演技している様は殆どバラエティショー。どれも昔のダサい少女漫画みたいな造形だ。公園での次女黒木瞳の紺野美沙子への抗議失敗から始まり、長女大竹しのぶと黒木の鰻丼の引っ張り合いとか、浮気相手と間違えて黒木の亭主小林薫に愚痴る大竹とか、小林の秘書と黒木の同じコートとか、大竹の浮気相手の妻桃井かおりとの下駄箱引っ張り合いから水鉄砲の対決とか。客席はシラケ切っていた。四女深田恭子のボクサーとの色恋はさらに無残でもう忘れた。
この脚本家、「あ・うん」の小林亜星のいつも怒っている父さんが秀逸だったと覚えているが、本作は何がしたいのかよく判らない。だいたい何が阿修羅なのだろう。浮気と浮気の連鎖はオンナが耐えるのねみたいな、昭和も50年代とは思えないお茶の間ドラマでしかない。大竹の見合い相手の不動産屋益岡徹が「これからは土地ですよ、株ですよ、指南しますよ」と席上で商売始めるギャグは、昭和54年でもこんなだったかと思わされた。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (0 人) | 投票はまだありません |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。