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[コメント] Dolls(2002/日)

らしくもあり、らしくもない。北野美術。
chokobo

北野武はここである程度の頂点に達したと思う。過去の北野作品のバイオレンスと恥ずかしげな優しさ、という”らしさ”と全くこれまでの作品とは相容れない女性的な”らしくない”面が同居しており、北野作品を愛する者を頂点に導くとともに、別の面で裏切るような表現手法を用いている。

ここではこれまで北野監督頑なに挑戦してきた”ブルー”を拒絶し”赤”に挑戦している。この”赤”とは血の赤である。血の赤、それは生きることだ。しかしながらここに出てくる登場人物は誰一人として生きてはいない。思い出だけに生きているのだ。そして思い出だけが映像として残り、現実は命を失い、又は本当に愛すべき者を残して孤独になることを求められる。3つのエピソードのうち2つはこのパターンである。唯一文楽表現を用いる婚約者との長い旅だけが命を同じくしそしてともに死を迎えることになるのである。

北野監督はこの作品で徹底した沈黙とささやかな(聞こえるか聞こえないかほどの)セリフを積み重ねる。これは北野ワールドで必ず見せる手法であり、いずれの作品でも残るのは銃声の音だけだ。この音だけを耳に残し、セリフの詳細はほとんど見る者に伝わらない。この映像と静けさこそが北野監督の優しさと言えるだろう。

菅野美穂は見事な演技であった。白痴に挑戦することだけでなく、ラストの微妙な表情の変化。この演技には泣かされる。

(評価:★5)

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