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[コメント] 猫の恩返し(2002/日)

“無難にまとめること”。それがこの映画の最大の命題であり、且つ至上命令だった。そしてスタッフは見事にそれに応え、豊富な予算を用いて全く無難な、毒にも薬にもならないものをきっちりと作ってくれた。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 宮崎駿抜きのスタジオ・ジブリ作品。ジブリらしさを出そうとして、手堅くまとめた印象を受ける。元々宮崎駿が監督した『耳をすませば』の世界観を踏襲し、そこに登場したバロンと言う猫の置物をヒーローとして設定して、不思議なファンタジー作品としてまとめている。

 ところでジブリらしさと言うのは何?と考えてみると、一貫性があまり感じられないのだが、比較的対象年齢を抑え、それで大人も観られる作品を作る。と言う点が挙げられるかな?対象がディズニーほど若年層ではないので、恋物語もプラトニック路線を突っ走り、教訓じみたものを内包する。こんな所か?

 ところが、本当を言わせてもらうと、上記の前提条件は全く意味をなさない。だって、今までの作品の大半はジブリ=宮崎駿監督なので、彼が「これを作りたい」と言ったら、それがジブリの路線になってしまう。(彼を称して「スタッフを奴隷の如く用い、暴君として君臨する」と、昔彼と仲が良かった某映画監督は語っていた)。仮に宮崎駿監督が「時代物を作りたい」と言えば時代物がジブリの方向性になり、「ファンタジーにしたい」と言えば、それが路線となる。「人を殺そう」と彼が言いさえすれば、劇中どれほど人を殺しても、やはり「ジブリ作品」の路線になる。

 つまり、“ジブリらしさ”とは、極めて危うい、そして漠然たる方向性に過ぎない。そんなものに無理に合わせようとした結果、結局過去の宮崎作品から引っ張ってくる事しか出来なかったと言うことだ。まあ、確かにそれは無難ではあったが。

 この作品、設定的には悪くないと思う。日常から不意に違った世界に入ると言うのは、帰って来るという前提条件を暗黙の了解としている分観る者に安心感を与えるし、異世界に行くのがヒーローではなくヒロインなので、受け身にならざるを得なく、その分心地よさに浸れる。主人公がネコに変わってしまうと言うのもなかなか楽しい(私は猫好き)。

 だけど、猫の国に入るのは「自分の時間を止めたいと思う」人間だという割には、ハルが本当にそう思っているかどうかは疑問。彼女はそれなりに幸せで、何となくだらけた日常を過ごしているだけなんじゃないかな?フラれることだって、自分で最初からその事を知っていたわけだし…「誰にでも起こりうることですよ」と言うことを強調しすぎたため、余計にその動機が不明確になってしまった。それにどれだけの元人間が猫の国に住んでいるのか、その事についても全く言及無し。

 ストーリーに関してもそれは言える。物語上、極めて受け身のハルは、ただ振り回されるだけで、自分から何もしていないし、自分の運命は全部他人任せ。助けられようと助けられまいと、全部自分をごまかして受け入れてしまってる。最後に街の上空から落ちる所は、自らの意志で落ちているわけでもなく、ただ助けられるに過ぎなく、ラストシーンだって、結局世の中をほんの僅かにポジティヴに生きようとしているのに過ぎず、かえって白馬の王子さまを待つ心境が増しただけ。

 『耳をすませば』にも登場したムーン(劇中ではムタ)は思っていたイメージとはまるで違ってたのと、バロンの台詞がちょっとクサかったのも、ちょっと評価低いか?(バロンに限っては、「王子様を待つヒロイン」にはマッチしてたけどね)

(評価:★3)

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