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[コメント] パニック・ルーム(2002/米)

後から「デヴィド・フィンチャーだったの?」と驚いた。今まで強烈な演出に何度もノックアウトされてしまったけれど、この映画にはそういう直球のドギツサは見つけにくい。演出手法が洗練されたとは言えるにしても、これって一応スリラーなわけで……。
かける

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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見るものを不安にさせるカメラワークや、よくわからない伏線といった、独特の「フィンチャー節」は順調にパワーアップしていたと思う。

でも、スリラーなのにこのビックリやドキドキの少なさは期待はずれ。フィンチャー的ショック! なんて要素が少なくなっていては、どれだけきれいな絵作りを見せてもらったところで評価しづらい。

裏窓』(ヒッチコック)」的密室劇の翻案という挑戦だったとしたら、詰めを欠くというよりは、脚本段階で既にいくつもボロが出ていたんじゃないか? そんな気さえする(特に強盗犯たちのキャラ立てや会話のやり取りは、一人が殺されるまでは終始コメディーに見えてしまうくらいだった)

ヒッチコックその人や、その演出手法に対するオマージュやリスペクト(あるいは挑戦?)だったのかもしれないにしても、淡々としたヒッチコック節の方が「背筋に冷たい物が……」といったスリラー的要素ではどうしても上に思えてくる。

例えば、ガスを注入されたり、ハンマーで殴り殺されそうになるそのときよりも、突然犯人その人から電話がかかってきたときのドキッ!(『裏窓』) の方が、はるかにスリラー的恐怖としては大きかった(余談だけれど、ああいうボンベに入っているのはLPガスでは? だとしたら、空気より重くて床にたまるはずなんだけど……閑話休題)

そうやって要素を一つ一つ考えてみると、フィンチャー的「直球」はまだまだ健在で、そして今回はそれが上滑りしたのかな、という部分もあったような気がする。

……と、公開から二年たってやっと見ることができたこの作品なのだけれど、それにはこんな事情もあった。

公開当時、たまたま手にとった女性誌の映画新作情報。 「強盗の中にパニック・ルームの設計者が加わっていたことから」

これじゃあまず「強盗が入る」「一味の一人はパニック・ルームの設計者」という序盤の展開のドキドキが大幅に薄れてしまうことにはならないだろうか。

どこで何が出てくるかわかっているお化け屋敷(スリラー映画)に入るためにはよっぽど思い入れのようなでもないと……と、確かめることもせず、なんとなく未見のままだった。

広告代理店の人に言わせると 「そのくらい内容に突っ込んで書いておかないと、読者の感心をひけない」 ということらしい。

どうせ映画を見るのなら、目一杯ハラハラ、ドキドキさせてほしいし、たくさんたくさん、もっともっと驚かせてもらいたい……なんて考えるのは少数派のようだ。

「お客さんは、物語の盛り上がりやポイントをある程度見せておかないと、わざわざ映画館に足を運ぼうだなんて思わない(前述・代理店氏)」

テレビでのCMや前宣伝番組、チラシなどで再三見られるネタバレには、そうやって映画会社や代理店が何もかもわかった上でやっているというから、あきれてしまう。

「これは五合目までバラしちゃってますよ」といったふうに、送り手側が確信犯でやっていることを「これはチラシに書いてあった(テレビで言っていた)からネタバレじゃない」と構えてしまえば、見事に踊らされているだけだと思うのだけれど……見くびる方が悪いのか、見くびられる方が悪いのか。

(評価:★2)

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