[コメント] 恋ごころ(2001/伊=独=仏)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
この物語の時空間や登場人物が限られているのは、いわば全てが一過性の(旅芸人一座による)舞台劇に過ぎないから、とでも言えばよいのだろうか。
この映画には回想シーンが挿入されているわけではないし、未来へ向けての伏線や示唆が詳細に語られていたりするわけでもない。
けれども、登場人物がこの<パリという舞台>に立つまでの過去を観客はそれぞれの言動や立ち居振る舞いから(断片的にではあるが)理解することができるし、また、「その時にならなければわからない」未来が彼らの面前にまだまだ広がっているのだということも理解できる。
つまり、この長い映画がとりあげる<その時>は、てんやわんやで長いようでいながらも、はるかに長い人生においてはほんの一瞬の(それこそまばたき一つ分ほどの)出来事でしかない。
「時は過ぎ、愛は残る」
登場人物すべてのそこに本当に<愛は残る>のかどうか、それは私にはわからない。
そこには必ずしも明解な解決策ばかりがあったわけではないし、不安定な安定とでも言うべきラストに、未来への輝く期待ばかりを見たわけではない。それでも、やがてこの<時>が、いつの日か美しい思い出になるだろうということは想像できる。
もう、ありきたりな、誰もが経験するという<地獄の日々>としてではなく。
日常というものは、日々旅の途中なのかもしれない。そしてもしそうなのだとしたら、せめてその各通過点を少しでも幸福なものへと昇華させていきたい。
なんてことを、<とりあえず今は>踊り続ける(旅の途中の)彼らを見ながらそっと思う。
迷宮のような劇場で、甘いイタリア菓子の香りを嗅ぎつつ。
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