[コメント] (秘)色情めす市場(1974/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
厳密に考えると、いわゆるネタバレとまでは言えないかとも思いますけど、ここの末尾で「補足」として書いた理由によりネタバレ扱いとしました。
これは『実録・阿部定』とともに田中登の代表作とされている怪作。日本映画を代表する映画といっても言い過ぎではありません。男性作家(それも1974年)の視点という制約は感じられるものの、いまなおその衝撃は新鮮。
ロマンポルノの中で、ポルノを超えた名作ナンバーワンとして『赫い髪の女』(79,神代辰巳監督)が挙げられることが多いけれど、それを遙かに凌駕しています。『赫い髪の女』は単に男女の性愛を、いわば淡々と描いたにすぎませんね。
若い人(特にハイティーンの女性)に是非観ていただきたいな。現在の性表現、性風俗、平均的性体験年齢とかを考慮すれば「成人映画」としてハイティーン世代の視聴を制限するのは不当ですよねぇ。もはや無効というべきでしょう。
大都市圏にお住まいの方は、できれば劇場で見ていただきたいと思います(未見者厳禁と書いたので、もう遅い?)。名作中の名作とされていますので、少しがまんして待っていれば自主上映・名画座上映はきっと見つかるはず。
《みどころ》
1、大阪下町の風景(現在でも面影は残ってるけど、いまとなっては見られない情景も見られる)。撮影:安藤庄平
2、芹明香(本作のイメージを体現しえた不思議な女優。閉塞社会の中で虚無的・無気力でありながら、娼婦である自己の尊厳を絶対に譲り渡すまいとする圧倒的な存在感は実に見事なので、ぜひ、ほかの芹明香出演作品の演技と見比べていただきたいと思います。性愛の行為に主体的な女を演じている点にも好感が持てます。因みに、閉塞社会というならいまの社会の方が閉塞度は高いと思う。社会全体が釜ケ崎化しちゃったっていうことかしらねぇ)。
3、花柳幻舟(助演女優賞ものの怪演。芹明香に拮抗している。芸人魂ここにあり!)。
4、モノクロがカラーに切り替わるシーン。パート・カラー(予算の関係で映画全体にカラー・フィルムを使えなかった時代の作品には部分的にカラーにするという手法が用いられた)のハンディを逆手にとって効果的・劇的に使った。
5、時代の空気を十分描けているにもかかわらず、それほど古くささを感じさせないところ。
《欠点》
本作中の宮下順子の演技を評価する方もいらっしゃるようですが、わたしはまったく評価できません。特に性愛表現があまりにも陳腐なので、余計だとしか思えませんでしたし、むしろ邪魔でした。ここだけがポルノになっているんだもん不快でしたね。
原題: 受胎告知
参考文献:
[MARCHE SEXUEL DES FILLES(LE) - Tanaka - Shikijo Mesu Ichiba - the Oldest Profession(フランス語)] [http://www.films-sans-frontieres.fr/detail.asp?idfilm=87]
Japanisches Kino der 60er/70er Jahre"Das älteste Gewerbe"(ドイツ語)[http://www.swix.ch/xenix/archiv/juni96/japan2.html#J10]
田中登監督ロング・インタビュー [「優美なる死骸遊び」に魅せられた作家、プログラム・ピクチャーの遺産] [http://www.cmn.hs.h.kyoto-u.ac.jp/backIssue/no1/Iview/tanaka1.htm] (CineMagaziNet! > CMN! no.1 > インタヴュー > )
[<純粋映画>と田中登(下−I) ───『秘・色情めす市場』(『マル秘色情めす市場』)] [http://www.asahi-net.or.jp/~ga2t-ksi/prev/eigatan3.html] (POESIE SKY > 映画論 > 田中登 > )
補足:「傑作」「怪演」「怪作」とか賛辞があまりに多すぎるので、期待して観られても困ると思いました。古い作品ですので「な〜んだ」としか思えなかったりするかもしれない。先入観なしに観ていただいたほうが衝撃を感じていただけるはずです。もし、未見の方がここまで読まれたなら、若干割り引いて観て下さい(手遅れでしょうけど)。そういう意味でネタバレ扱いにしました。▼追記(2002.2.3)「割り引いて観て」もきっと無駄ろうな。というのも、全く期待しないで観て、「その『衝撃』に驚愕した」というのが感想でしたから、予め「きっとびっくりするよ」なーんて言われて観たなら「ふぅ〜ん」程度だったかも。未見でこの review 読んじゃった人には「お気の毒さま」としか言いようがない。ネタバレ【警告】はちゃんと入れましたからねっ!
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