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[コメント] クローン(2001/米)

設定とストーリー展開では、はるかに原作を超えている。しかし、テーマということでは原作に及ばない。というよりも意図的に原作のテーマをぼかしたのかも。そういう意味ではディックのSF小説の映画化の典型ともいえる。
シーチキン

**ネタバレ注意**
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劇中の近未来世界の描き方は原作の設定を越えている。さらにそれだけでなく、「幽霊」として社会からはじき出された人々の存在など、戦時中でありながら、はっきりとした階級社会として描いてみたり、また「オリジナル」にそっくりな「生体サイボーグ」など、一方ではディック風味な世界がしっかりつくりこまれており、SF映画として見応えがあった。

またストーリー展開にしても、もともとは単純な追いかけっこに過ぎないものを、その基本を崩すことなく、上手く病院と薬の入手というエピソードを織り込み、脚本もよく練られていると思う。

これに比べれば原作の方は、ストーリーは単純だし、設定などにはけっこう大きな穴もあったりしているから、娯楽SF映画としては秀作といってよいと思う。

ただ、ディックが原作となった短編SF「にせもの」(Impostor)でもっとも描きかったことは、本物そっくりの自爆ロボットによるスリルということよりも、戦争中なら政府から「お前は記憶、人格まで、本物そっくりに作られた自爆型ロボットだ。危険なので直ちに処理する」と通告されたら最後、弁明の機会も与えられずに処刑されるということの、恐怖感、不安ではないだろうか。(私にはそう思えた)

だからテーマとしてはもうちょっと普遍的に言えば、国家危急の際ならろくな取調べとかもせずに問答無用で、誰でもひったてられることへの、不安と、おそらくは抗議があったのだろう。

そしてそういうテーマだからこそ、原作のラストもけっこう強引なのだが、ディックにとっては、そうやって疑われ連行される、ということが大事なのだから、最後は爆発しようがしまいが、あまりたいしたことではなかったのだろう。

ところがこの映画では、その点は完全になくしてはいないが、意図的にぼかされているのではないだろうか?

劇中、スペンサーを追いかける秘密警察のハサウェイ少佐ビンセント・ドノフリオが、その上官とのやりとりの中で、さらっと「これまでに10人ほど、(自爆式生体サイボーグと)間違えて死なせた。そして数万人の命を救ってきた」と言っていた。実はこの台詞こそ、この映画の中でもっともディックの原作のテーマに近いものではないだろうか?

しかしその台詞の扱いは短時間だし、おまけに映画全体を通して見ればこのハサウェイ少佐の台詞は、問答無用で無実の人間を死なせることの是非というよりも、少々の困難などでは決してひるむことなく、文字通り、断固とした鋼鉄の意志でもって任務を達成する、という一種のヒロイズムのような印象になっている。

原作者であるディックは1982年に死去しているが、自分の小説のテーマを巧みにぼかしながら、その設定を非常に上手くいかしてこういう映画になったということをどのような面持ちで見ているのだろうかと、ちょっと考えてしまう。

(評価:★4)

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