私は中野裕之の映画を観たのはこれで２本目だが、別に斬新だともスタイリッシュだともオシャレだとすら思わなかった。ただ中野裕之らしいと思った。それってある意味すごく重要なんじゃないかと思う。「らしさ」っていうのはアイデンティティーの確立とでも言うのか、オンリーワン的要素があって好感が持てる。

私は「こうすれば売れるんじゃないか」とかいう、いわゆる「売れ筋狙い」というものがあまり好きではない。だからこの監督にはある意味すがすがしさすら感じる。「誰が何と言おうと、己の好きなように撮る！」おー。面白いじゃないか。万人に受け入れられる事がなくても、それを貫き通してくれよ！と思う。

キャストが豪華とか言う人も沢山いるが、ん？豪華か？邦画にはありきたりなキャスティングだと思ったけれど…。豪華かどうか、それは個人の嗜好の問題もあると思うが、私的には全然豪華とは思わなかった。逆にありきたりだよね、こんなキャスティング。だからキャストが生きてなかったとか思わないし、あのキャストならこんなものだろという感じだった。

ただ麻生久美子は本当に良いと思う。前半で姿を消した時は唖然としたが、彼女はやはり儚い役どころがしっくりくるのかな。（『ひまわり』、『贅沢な骨』然り）彼女の映画をもっと沢山観たいというのが正直な気持ち。それから安藤政信も映画を選んでない感じがフットワークの軽さを思わせて好印象。

辛口評価の多いこの映画だけれど、私的にはそれほどでもなかった。（評判の悪さを嫌というほど聞いてたからかな） 中野監督の次の作品が、売れ筋狙いとなっていない事を祈る。