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[コメント] ディスタンス(2001/日)

台詞の少ない作品だが、その無音の行間が語るモノは冗舌すぎるくらいに伝わってくる。
sawa:38

私たちはあの事件をよく知っている。理解は出来なくとも何が起こったのかは知っている。

私たちは、彼等が何故「あちら側」へ傾倒し事件を起こしたのかが理解不能なだけである。そしてソレを完全に理解したいとも思わない。理解した時は私たちも「あちら側」へ行ってしまっているはずだからだ。

この作品に出てくる「捨てられた人々」は自分を捨てて「あちら側」へ行ってしまった家族を理解しようと模索する。・・・遠慮がちに・・・捨てられた負い目と理解してあげられなかった負い目。

「捨てられた人々」が湖やロッジで黙しているカットは冗長かもしれない。だがその無音の行間には、家族でありながら、その実何も分かっていなかった自分への責めと、今からでも理解してあげられないのかという叶う事のない愛情が満ち溢れてくる。

私たちもアノ事件に対して情報過多でありながら、その実何も理解出来ていないから、作品に同化し一緒に模索をする事になる。結果的にこの作中でも、現実でも、彼等を理解する事は放棄している。

連合赤軍のリンチ事件を扱った『光の雨』もタブーとされた事件に挑戦的に挑んだ作品で私的には高い評価を点けているが、結局のところ犯人たちの心理は「理解不能」である為、劇中劇というような二重構造の作品にして「逃げ道」を確保していた。

本作も犯人たちの遺族という特異な設定を得て、「理解不能」という結論になっている。両作品とも正直である。犯人たちの側へ入り込んで、理解したような口調で語られるのはたまったものではない。「分からないものは分からない」と放棄している。

だが、私たちはアノ事件をよく知っているからこそ、無音の行間に潜む膨大な情報と惨劇に想いが溢れてくるのだろう。

この作品、見た目以上に冗舌である。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)町田[*] ことは[*] グラント・リー・バッファロー[*]

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