[コメント] 特急二十世紀(1934/米)
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初演の大成功、恩師ジョン・バリモアを求めて走るキャロル・ロンバード。ここでホロッとさせるのだ。これは続く三年後の刺々しい関係に落下する前のネタ振りでもあるのだが、独立しても観れるとてもいい件である。演技の会得を通じて、二人には確固たる信頼関係があると示して素晴らしい。
この件があるからこそ、以降はどんなドタバタが積み重ねられても、安心して観ていられる、という構造が本作にはある。ふたりは何があっても最後はあの信頼関係に戻れるのだから。だから本作はロンバードがバリモアに騙されたという結末では全然ない。ロンバートは喜劇的に自分を上手く騙して元の鞘に収まったのだ。ヒップに刺された待ち針をいつも携帯しているロンバードのショットを見逃してはいけないのである。
後半のキリスト教のパロディはもの凄い。ベン・ヘクトは有名なシオニストらしいが、ユダヤギャグがここまでストレートなハリウッド作品は珍しかろう。「神を畏れよ」のステッカー連発の爆笑ギャグがアメリカで喜ばれる訳がない。ロンバードにマグダラのマリアを演じさせる無茶苦茶な構想だってそうだ(無論これは、悪女と化したロンバードを思慕するバリモアのねじれた願望である)し、バリモアの逆椿姫の芝居だってそうだろう。だから、アメリカの低評価に惑わされてはいけない。本作はアメリカ以外の場所で大笑いするべき作品である。
栄光のホークス・チーム喜劇の骨格は本作ですでに完成している。チャップリン・キートンとは違い集団でギャグをかますこと。女優は基本ひとりでありルビッチのように女同士の葛藤を描かないこと。バリモアは舞台でハムレットが十八番だったらしく、よくこんなパロディに登場したものだが、興味深いのは横顔がときどきチャップリンの肖像と重なることで、喜劇がさらに彫りを深くしている。チョーク、待ち針、ステッカーと小物の連発振りがやはり愉しい。あとは子役と動物か。
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