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[コメント] コカコーラ・キッド(1985/豪)

・・・強いて言えば三重の構造を持った映画、なのだろうか?
くたー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







とあるエリート営業マンが、僻地の村人との奇妙な触れ合いを通して、幸せを見つける話。こんな一見ハートフルな筋書きの随所に、かすかに聞こえてくる笑い。でもこの「笑い」の質は、オフビートな笑い、あるいはちょっとした皮肉な笑いともまた違うような気がしてならない。

時折挿入される小馬鹿にしたようなチープでファニーな音楽、突然尻を向け糞をする鶏、あるいは意図の全く解らない背景の何気ないおゲレツなセリフ・・・。どーもこれらに接すると、かすかに嘲笑めいたものを感じてしまう。おそらくイマイチほのぼの出来ないのは、これらのせいなのではなかろうか・・・?

と、そんな表向きのストーリーの中のかすかな違和感に気をとられつつ映画を見ていると、ラストの字幕で一気にうっちゃりを食らう。映画のさらに底流で、トンデモなく深いテーマが展開していたのだろうか?もはや底に沈み過ぎてて、正直何のことやらさっぱり解らない。

ただ、確かにチープでおゲレツな笑いの背後で、政治的なテーマが見え隠れするというのは、マカヴェイエフ氏の諸作によく見られるパターン。ただここでは、さらに心温まる(はずの)物語でコーティングされてしまっているから始末に終えない。

ただその裏テーマ(?)が、必ずしも読み解けるように整然と描かれてるワケではなさそうな気はする。マカ氏が自作に対して、このようにコメントしたものがある。「私の映画は、たくさんのドアがある家のようなもの。各自が選んだドアによって中に何があるか見つけてもらいたい」。ここで言うそのドアは、資本主義社会の申し子のような主人公、炎の中に消えた男爵、どーもテロリスト臭いベルボーイ、めでたいとは言え「その金は?」と突っ込みたくなるハッピーエンド、そして「第三次世界大戦」(しかも日本へ言及するトコロが興味深い)、といったものだろうか。筋書き自体も異文化交流というよりは、どちらかと言えば経済構造の違いが強調されている。

しかし全体を通して雑然としている印象は否めない。ハッキリ言ってしまえば、失敗作なのかもしれない。ただその失敗作としているものが、この映画の独自のテイストになっていることも否定できない、とは思う。

追記: 特集上映時のパンフレットによると、どうやら主役のエリック・ロバーツが撮影中に、スタッフに総スカンされるほど大暴れ(?)していたらしく、マカ氏も彼に恐れをなして影武者監督を立てて逃亡、しまいには脚本からも氏の名前を外してしまったらしい。さらにはグレタ・スカッキなどは、インタビューでロバーツのことが大嫌いと公言していて、彼を殴るシーンでは思わず本気が出てしまったという(笑)。一見のん気な空気が流れていそうな裏で、実は熾烈な人間ドラマが展開していたのかと思うとかなり笑ける。そんなとこにもこの映画の秘密がありそうな。

(評価:★4)

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