[コメント] 偽大学生(1960/日)
若尾は超エリート大学の歴史研究会メンバーという役。メンバーは他に伊丹一三(伊丹十三)、藤巻潤、大辻伺郎ら。偽大学生の藤尾は、偶然、伊丹が警察に連行される際に関わってしまったことから、この歴研のメンバーになる。
実は見る前の予想としては、藤尾が偽大学生であることがバレるかどうかのスリルでひっぱり、終盤で露見するようなプロット構成かと思っていたのだが、偽大学生でなくなるのは(つまり若尾らにバレるのは)、映画が始まって30分過ぎ(3分の1)ぐらいだ。その後、歴研メンバーから、警察のスパイだと間違われ監禁される。なんとか逃亡を図り、警察に確保してもらうが、警察は、歴研メンバーの活動を潰したいので、今度は警察の執拗な取り調べを受け、こゝでも監禁状態になる。さらに裁判後は精神病院に収監され、結局、外へ出られない、という皮肉な不条理劇のようなプロットなのだ。いや、映画冒頭の受験生時代の描写も含めて、本作の主人公は、全編に亘り、ずっと囚われの身、と云うべきかも知れない。
さて、本作も屋内の縦構図とディープフォーカスが基調の画面だが、例によって、もう少しピンポイントの感想に移ろう。最も強烈に印象に残った部分は、何と云っても、歴研の部室に監禁されている場面でのトイレの問題がしっかり描かれているところだろう。詳述はしないが、こゝはかなり不快が画面が提示される。しかしそれもあるし、また、次第に学内にウワサが拡がっていくという状況になり、藤巻らが、とんでも無いことをした、とだんだん気付いてくる、という展開がいい。若尾が藤尾に手を噛まれ、別室で藤巻と二人になった際、オレたちが監禁されているみたいだ、と云う。こゝで藤巻が若尾にキスし、パンして彼女の太腿を触るショットが挿入されるのも余計に焦燥感が昂進する。
また、若尾の家族について、尺は短いが効果的な描写があるのもいい。彼女の父親−中村伸郎は元大学教授で、戦時中、軍部に盾つき拷問され、目がほとんど見えなくなったという設定だ。中村はサングラスで2度ほど登場し、良い個性を発揮し、アクセントになる。あと、姉が岩崎加根子で、その夫(若尾の義兄)が船越英二。船越は売れっ子助教で歴研の顧問でもある。岩崎にはお父さんに似て気が強いから、船越に嫌われた、みたいな科白があり、夫婦仲が悪く、私は、船越が義妹の若尾に手を出すような展開を期待してしまったではないか。ちなみに終盤には、若尾にも「私もお父さんに似たんだわ」みたいな科白がある。
そして、クライマックスは終盤の、大学食堂での集会シーンだろう。メンバーが集まって反省会のような総括を行う。沢山の一般学生の聴衆もいる。こゝに、藤尾とその母親の村瀬幸子が入ってくる。もう藤尾は完全に狂っているように見えるが、この村瀬は(彼女へのディレクションは)、やり過ぎだろう。ちょっとこれには幻滅する。若尾一人だけ、難しい表情で、この茶番に嫌気がさしているのだが、それを強調する目的にはかなっているかも知れないが、逆に村瀬が、田舎者だが真実を暴くような、聡明な女傑として描かれていたらどうだったろう。ただし、全編通じて、気怠い若尾の一貫性はいいと思う。また、ラストの藤尾からトラックバックしてドアが閉まる移動ショットも悪くない。
#備忘でその他の配役等を記述。
・受験生時代の下宿は伊達正と村田扶実子の家。偽大学生になってからの下宿は中華の食堂で、主人は春本富士夫。
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