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[コメント] オール・ザ・キングスメン(1949/米)

ウィリーの生き方は多かれ少なかれ、誰しも通る道だったのかも知れません。背けようとした自分自身の姿が確かにあります。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 ロバート=ペン=ウォーレンのピューリッツァー受賞作の映画化。モデルはヒューイ=ピアス=ロングとされる(wiki)。彼はルイジアナ州知事から上院議員にまでなった人物で。公共事業を増やしたり、所得再分配を議会に提出したりして選挙民の受けは良かったが、内部では賄賂や恐喝が起こっていたとされる。クリーンな政治家の堕落を冷徹な目で描いた作品。政治映画と言うよりは、一人の人間の生き様を通して、人間の弱さや、権力がいかに人を堕落させるかと言うことを描ききった作品。

 政治の世界と言うのは、決して私たちに無縁ではない。極端な話をすれば、三人いれば、そこには必ず政治的駆け引きが存在するようになる。それを理解し、他の人間を利用できる人間が常に上に立つ。ドライな見方をすれば、立場はどうあれ政治的姿勢を持つ人間は得することが多いのがこの世というものである。

 私はそう言うのが苦手なのだが、仕事上人間関係を調整するためにはそう言った手管を使わねばならないし、時に人に巻き込まれて自分の旗印を明らかにせねばならない。ややこしい人間関係に常に巻き込まれているからこそ、私の息抜きの場として映画があるのだが(就中、映画レビューってのは私にとっては自分の考えの中に沈み込むことが出来るありがたい時間)、本作の場合、その映画自体が政治をどんっと目の前に置かれてしまった。

 正直な気持ちで言えば、これは、かなりきつい。

 権力と金。これで人は容易に変わる。大学時代、色々なことを話し合っていた友人が、金の多寡で人を判断するような人間に変わってしまったのを実際目の当たりにしたし、それは私自身も同じだ。

 理想はある。いや、あったはずなのだが、いつの間にか日常に呑まれてる自分。いかにして楽しようとばかり考えてないか?と言う事実を鼻先に突きつけられてしまった気分だし、何より、ここでのウィリーの問題って、本当に簡単に起こりえる事なんだよな。清廉潔白な政治家なんてものはまずおらんとは言われるけど、実際私生活だって自分自身が清廉潔白さとは離れてしまってることを知るし、簡単に欲望に負けてしまった人間の末路がこれだと思うと、寂しくなってしまう。

 出来の良さもあるが、それを自分自身に突きつけられた思いをさせられたと言うのが本作の最も凄い部分だった。映画にはこんな力もあるのだ。映画の力というのはつくづく凄いものだ。

 それに本作が作られた時代というものを考えても凄いと思える。

 この時代は丁度赤狩りが始まった時代に符合し、ハリウッドでもその流れは席巻していた。事実監督のロッセンは赤狩りが始まった時、最初に喚問された19人の内の一人。本作が実は彼をリベラリストとして槍玉に挙げたきっかけになってしまったのだ。

 それでロッセンは再喚問される間に本作を撮った訳だが、前半で正義のために戦い、後半になって金権政治にまみれていく主人公は監督自身を描いているのかもしれない。そんな逆風の中で作られたからこそ、本作の深刻さが染みわたる。1949年の作品賞オスカーはハリウッドが最後に見せた意地のようなものだったのかも知れない。

 更に政治的圧力を受けて日本公開もされなかった。

(評価:★4)

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