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[コメント] パリ、18区、夜。(1994/仏)

実にカッコいい映画だ。溶明する前にプロペラ音が聞こえ、開巻はヘリの操縦席の画面。大笑いするパイロット2人が映る。窓ガラス越しの地上の俯瞰。パイロットが笑っているのは、見終わってから考えると、本作自体への自己批評的な象徴性を感じる。
ゑぎ

 続いてハイウェイか、道路のショットにクレジットが入るのだが、一台の古い自動車の後部に寄って行く。これを運転するのが、主人公ダイガ−カテリーナ・ゴルベワだ。この登場のさせ方もだが、彼女のモデルのようなルックスがカッコいい。自動車はソ連製だと後のシーンで分かるが、彼女は、リトアニアから叔母さんを頼ってパリに出て来たばかり。ほとんどフランス語も話せないが、女優志望だ。

 実は主人公はダイガ一人ではなく、人によって感じ方は異なるかも知れないが、少なくも、もう一人、アフリカ系のバイオリニスト、テオ−アレックス・デカスは、ダイガと同じぐらいの比率で描かれている、と云えるだろう。さらに、私はもう一人、テオの弟カミーユ−リシャール・クルセを加えた3人が、主役と云うべきだと感じられる(テオよりもカミーユの方が主役に近いと思う人もいるだろうが)。ダイガだけでなく、これら3人はビュジュアル的にも画面映りの良い演者なのだ。脇役では、テオの妻−ベアトリス・ダルも、とても重要な、プロットを引っ掻き回す役割を担うし、テオとの子供も可愛い。バットマンのコスプレ!そして、ダイガが住み込んで働くことになるホテルの経営者ニノン−リン・ルノーがまたとってもカッコいい老婦人で、この人が出て来る場面も良い場面が多い。その登場は、棒(短杖)を使った護身術の道場の師範役という扱いだ。

 また、本作もダンスの映画と云っていいだろう。黒いイブニングドレスとオペラグローブ(長手袋)で決めたカミーユの、バーのステージでのダンスと歌唱。テオとカミーユの母親の誕生日パーティでの母子のダンス。そして、ダイガとニノンが、ホテルのラジオから流れて来たプロコルハルムの「青い影」に乗って踊るシーンも素晴らしい。二人で笑いが止まらなくなってしまうのは、冒頭のヘリのシーンも思い出させる。

 あと、ダイガが、リトアニアからパリまで乗って来たソ連製の車を売ろうとする場面が、とても愉快なコメディ演出になっていて、まずは、ロシア語が分からない相手への悪態が面白いが、カーチェイスから故意の追突、というところまで発展させてしまうのは、誰も予想できない、ぶっ飛んだ展開だろう。全体に重苦しいムードを漂わせた作品の中で、こういう非現実的なプロットを、映画として大きな違和感もなく、やすやすと画面にし、入れ込んでしまえる、というのが、やっぱりクレール・ドゥニの才能だと思う。

#私は知らなかったが、ニノン役のリン・ルノーという人は有名な歌手のようだ。本作中、劇伴でディーン・マーティンのデュエットソングが使われていたが、その相手の女性歌手がリン・ルノーとのこと。

(評価:★4)

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