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[コメント] 普通の人々(1980/米)

家族の姿は時代によって変わります。これが80年代の姿とすれば、今の姿は…
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 原作はミネソタの主婦ジュディス=ゲストの同名小説。ゲラ刷りの原稿を読んだレッドフォードは出版前に自分の初監督作品として映画化権を買い取る。

 甘いマスクと意思力を秘めた青い目。ハリウッドの二枚目スターとして押しも押されもせぬ大スターだったレッドフォードだが、それだけでは終わらせない。という意地を見せたのが本作。ルックスに自信が無くなったから転向したのだろう。という陰口もあったにも関わらず、見事初監督作品でオスカーを得るという快挙を成し遂げた。

 前年に『クレイマー、クレイマー』(1979)がアカデミー作品賞に輝き、現代の普通の家を描くことも評価されるようになったし、当たる要素は確かにあったが、それにしてもアクションスターで知られるレッドフォードが監督第一作として選ぶにはかなりの冒険だったのでは無かろうか?

 本作観たのはつい最近のことなのだが、1980年という時代に、家族の再生と心の問題を真正面から取り組んで描ききっていると言う事実に正直驚いた。20世紀も終わりになってようやくこういう映画が出始めたとばかり思ってたよ。しかも話は静かに静かに展開していく。大枠のストーリー自体はテレビのソープ・オペラと大差ないのだが、その視線は鋭く、センチメンタリズム性も都合の良い展開も無し。極めて客観的な視点によって作られている。この辺りからアメリカではカウンセリングが普通になっていくことになるのだが、それも含めて、世相というものをしっかり捉えているのも好感度高い。

 そもそも私は家族の再生の物語に割と弱い方だが、それは90年代、家族制度がかなり崩れてしまった時代を基盤にしていたと言うことを感じさせられた。1980年初頭には、まだ古い家族制度が残っており、それを一旦破壊しなければ、再生の物語を語ることは出来ないのだ。

 だから、本作が描くのは単なる再生ではない。今の家族を一旦バラバラにした上で、その中から本当の家族を作っていくと言う過程こそが実は本作の肝であり、「愛せない」自分を見つけ、それを受け入れることもやはり必要なのだ。

 “あるべき理想の家族”を装うことから、自分の限界を知り“素直さ”へと向かっていった時代。この作品はとてもリアリティに溢れてる。表題の「Ordinary People」とはそう考えると色々意味深く思えてくる。

 キャラはやっぱりサザーランドの巧さが光る。不良青年役が似合ったサザーランドもすっかり落ち着き、役の幅を広げた。

 周りを取り巻くキャラは実はあまり映画ではあまり有名な人はいないのだが、テレビドラマで活躍した人たちらしい(母親役のムーアは1970年代にテレビで活躍したコメディ女優で、彼女のファンだったレッドフォードに抜擢されるが、丁度同時期に彼女の一人息子を麻薬中毒で失うという悲劇に見舞われ、それが役の説得力を増している)。その方が普通の家庭を描く場合素直に見られるだろう。という配慮のためだったとか。

(評価:★4)

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