[コメント] イングリッシュ・ペイシェント(1996/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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僧院でのハナ(ジュリエット・ビノシュ) の、下着姿や、水を浴びる裸身。同じ僧院に二人きりで居るアルマシー(レイフ・ファインズ)は、だが、動く事さえできない。第三者の干渉に苛立ち、他の男に嫉妬するアルマシー。ハナがその乳房を顕わにするのは、キップ(ナヴィーン・アンドリュース)と結ばれる場面でだ。
ハナとキップの愛と、アルマシーとキャサリン(クリスティン・スコット・トーマス)の愛は、直接の関わりは無いが、男女が心を通い合わせる場面での、映像的な照応関係が感じられる。洞窟壁画と、教会の天井画。照明弾と発煙筒。キップに綱で吊られて宙を舞うハナは、洞窟壁画に描かれた、泳ぐ人のよう。
絵画で結ばれる男女。僧院にやって来るウィレム・デフォーは、画家カラヴァッジョの名を名乗る。アルマシーから「偽名だろう」と言われるが、画家の方の「カラヴァッジョ」も、実は本名ではない。加えて、殺人者となって逃亡していた人物でもある。アルマシーは、彼をスパイだと思った友人が自殺しているし、ハナも、自分が親しくなったせいで友人が死んだと思い込んでいる。この事とも関連させての「カラヴァッジョ」なのだろうか。
アルマシーとハナは、友人のみならず、愛した異性も、自分を愛したせいで亡くなったと感じている。ハナの恋人が敵軍に吹き飛ばされた事と、アルマシーもまた飛行中に対空砲火で吹き飛ばされた事。「外国人の名をした僕を愛したせいで彼女は死んだ」と悔やむアルマシーは、火傷で顔を失った事に加え、自分の名も、忘れた事にしようとする。顔と名、つまりは人種と国籍の違いが、戦争という状況に於いて愛を引き裂いたという事。
ハナは、あたかも呪いが解けたかのように、キップは失わずに済むが、彼が「善いイギリス人」だと評価していた同僚は、婚約者を残して爆死する。ハナが特別に呪われていたのではなく、彼女の身に起こった悲劇は、戦時下に於いてはありふれた不運であったのだという、冷厳な事実。
カラヴァジョの回想シーンでの、ドイツ人将校に親指を奪われる直前に、まだそこに指がある事を実感させるかのように止まっている蚊のショットを挿入する細心さ。その彼が恨んでいたアルマシーが、キャサリンに「毎夜、ハートを切り裂いていたけど、朝になると元通りになっているんだ」と呟いていた事と、カラヴァジョが彼に「朝になると殺す気が失せている」と語る台詞。
最終的にハナは、愛した人が戦争に殺される、という呪いから解放され、彼女の手でアルマシーは、安らかにキャサリンの許へ旅立つ。ここで再び、冒頭の、キャサリンとアルマシーの飛行シーン。二人の乗るプロペラ機は、画面左へ向かって飛び、ハナが乗るトラックは、画面右へ向かって走る。ハナとアルマシーの、男女の愛とはまた別の絆を感じさせる、別離の情景だ。
余談だけど、劇中の「♪バナナは売り切れです」という歌は『麗しのサプリナ』にも登場していたと思うのだけど、何の歌なんだろう?
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