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[コメント] サムライ(1967/仏)

淡々と一人の男を追っていくカメラ。なのにSF映画よりも《非日常》的だ。
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







*そろそろ「私が最も観ている映画」になりそうだ。いつもなにも予定の無い日に鑑賞する。バイトとかある日は絶対に観ない。この映画の余韻に浸っていたら仕事なんか出来ない。

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雨、夜、沈黙。

弾のない拳銃。

大袈裟な描写は一切なし。ただ単にアラン・ドロン= ジェフの行動をしつこいほど見せる。彼一人の場面が圧倒的に多い。ここまでカメラは纏わりついているにも拘わらず、日常的な息を抜いた、かっこよくない描写も一切ない。

▼彼で始まり彼で終わっている。自己完結。ジェフの死=映画の終わり。換言すればこの映画は、全てが彼そのものだ。ジェフだけの映画。大胆かもしれないが、他の登場人物たちはジェフを表現するための必要悪のものだろう。『鬼火』とこの点で似ているかもしれない。

例えばジェフの部屋。寒寒とした、生活感が無い青い部屋。これは彼を反映している。彼の心もまた温かさ−暖色の空間−とは程遠いものなのだろう。

例えば小鳥。小鳥は鏡に映ったもう一人のジェフだ。彼と一緒にいるときは平静な状態であるが、ひとたび見知らぬ人間が部屋−彼の内部−に侵入すると、羽をばたつかせ暴れる。これについては次で説明する。

▼他人との関係性の欠如、または拒否

生活していく以上、たとえ映画の中でも他人との接触は必ず存在するだろう。しかしジェフの周りに人間はいない。拳銃を扱う男や、一緒にポーカーをする人間たちが登場するが、いずれも深い関係があるわけではなさそうだ。最もつながりの深いナタリー・ドロン演ずるジャンヌ・ラグランジュに対してもジェフが心を開いているようにはどうしても見えない。彼女のために行動しているわけでもないし、彼女と共に生きるでもなく、ましてや彼女のために生きているわけでもない。

ジェフは自分だけの世界に生きているのだ。

殺し屋という単に他人を寄せ付けない職業を通り越して、なにやら彼はナルシスティックな領域にまで達してしまっている。ジェフのかっこいい、キメた仕草は自分に見せるための、自己満足を得るためのものなのだ。死に際までもかっこよく。ジェフが自分を見つめる目がこの映画。だから非日常的なシーンのみで意図的に構成されている。カメラの視点が普通の映画とは異なっている。

▼ジェフは何故犯罪を犯すのか?

人をいくら殺しても罪悪感は持っていないようだ。故意に警察に関わろうとしているのだろうか?自ら破滅の道へ?他人の手を借りた「自殺」とも。

▼最終的に『サムライ』は(冒頭にもあるが)孤独に関する映画だと思う。但し「孤独」をネガティヴに問題にしようとしているのではなく、あくまでも「孤独」に支配された一人の人間を描いた一つのケースとして捉えた方が妥当だろう。だから彼が何故殺し屋になったのか、何故孤独なのかは全く示されていない。

密林に住むトラでさえも恐れをなすという究極の孤独がここにはあるのかもしれない。

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今のところ何100本かに1本の大当たりクラス。この映画は雰囲気が最大の特徴だと思う。なんでもない行動(殺しだからなんでもなくはないが)をドラマティックにせず淡々と積み重ねているだけで、一つの完成度の高い作品になっている。言葉はあまり重要ではない。抑揚がなく同じトーンなので特定のシーンではなく全てが好きだ。こういう映画は滅多にない。音楽も良し。外国映画だから街のシーンが多用されていても気になるところはないが、これが邦画だったらいくらかっこ良いことをしても広告で台無しになるだろう。

雨、夜、沈黙・・・。

アラン・ドロンに∞点。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)ルッコラ ハム[*] sawa:38[*]

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