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[コメント] 人間(1962/日)

本作が退屈だとしたら、それは日本人の退屈さかも知れない。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
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極限時に人を喰らうのも人間なら、騙し通せる嘘に耐えられないもの人間。タイトルは別に構わないし、広大な海原を背景とするボロ船の閉塞感を浮かび上がらせる美術は優れている。林光の音楽も悪くない。ジャジーな不協和音いっぱいな音楽が強調するのは、佐藤慶乙羽信子のふたりの存在の喜劇性だろう。

よく判るのだが、どうにも驚きがない。上から簡単に見下ろせる図式に過ぎる。極限状態になれば「人間」とは生態観察される動物並に単純なものなのだろうか。特に信仰の善人である殿山泰司の造形が単調過ぎる。他の宗教圏ならどんな極端なことになったか知れず、本作が退屈だとしたら、それは日本人の退屈さかも知れない。信仰と奇跡について云い淀んで終わるのも半端。結局救済は大型タンカー船とはイロニーのはずだが映画は拘りを見せない。

本作で優れているのはフラッシュバックで、うどん啜る乙羽の回想などの哀れな喜劇性がいい。殿山のあれは孫娘だろうか、一瞬の笑顔の回想が特に記憶に残る。

原作「海神丸」を読んだので追記。この素朴さで優れた小説に比べれば、映画は佐藤慶が知的に過ぎたと思う。一方、殿山の金毘羅信仰は小説でも突き詰められた訳ではない。小説は比喩の上手さが素晴らしかった。飢えの最中、胃袋が別の生き物になる等。この辺りは映画では再現できないだろう。

(評価:★3)

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