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[コメント] アッと驚く為五郎(1970/日)

シリーズ第一作は瀬川昌治。この後、野村芳太郎で3本作られ、最終作(5作目)は森崎東。私は森崎版のみ見ており、野村版3本は未見の状態で本作を見る。
ゑぎ

 アバンタイトル、ファーストカットは、棚の上のラジオ。スチル写真かと見紛うセピア色の画面。ラジオ放送に擬して浪曲が流れる。歌詞で「時は大正12年」。為五郎の出産風景だ。画面が揺れる。大地震。母体から飛び出た新生児のストップモーションに「アッと驚く為五郎!」と入る。続いて戦時中の映像から、小さな橋を川の中から支える(文字通り人柱になった)軍服姿のハナ肇が登場。負傷して広島の病院に入院中に、看護師の梓みちよと恋に落ちるが、原爆投下でまた「アッと驚く為五郎!」と来る。これには不謹慎みたいな気になったけれど笑ってしまった。

 メインのプロットは高度経済成長期、高利貸しになった為五郎とライバル同業者−佐藤友美との対決、及び為五郎と戦時中の恋人の娘−梓みちよ(二役)との関係が描かれる。この中で、為五郎の部下というか助手というか、借金の差し押さえで拘束され、こき使われている谷啓がもう一人の主人公のように活躍する。谷は、最近羽振りの良い佐藤の金主(スポンサー)を探ったり、これはスモールワールドだが、偶然にもヤクザに絡まれた梓を助けたりする。さらに為五郎の娘役の尾崎奈々と彼女につきまとうヒッピーの居候−なべおさみを加えて主要登場人物と云っていいと思うが、出番はそれほど多くは無いが、なべの母親役をミヤコ蝶々がやっていて、やっぱり、こゝでもこの人が抜群の存在感を示すのだ。

 為五郎の基本設定として、幼少期からアッと驚くことばかりに遭遇し、何も驚かなくなっている、というタイトルと真逆の状況が示される序盤はワクワクする。南博が医者で登場し、脳波を測定すると、グラフが一直線という見せ方。これに心配した娘の尾崎奈々とヒッピーなべおさみが為五郎を驚かせようとする。しかしこのプロットも中盤以降、どうでもよくなってしまうのは本作の求心力の弱いところだろう。また、本作には、しっかりとした悪役・敵役が設定されていないという点もウィークポイントと云えると思う。佐藤はライバルではあるが、大して悪辣ではないし、終盤、ヤクザの親分−金子信雄が登場してからも、ほとんどアクションシーンには発展せず、ほゞ、壺振りの勝負で決着がつく。瀬川昌治らしく、クライマックスでコマ落としを使ったスラップスティックがあるかと期待していたがこれも無い。期待で云えば、この当時の梓みちよに歌唱シーンが全く無いというのも寂しいじゃないか。

 というワケで、全体に瀬川喜劇としてはイマイチという感覚を持ったのだが、例によって、逐次ワンポイント投入される常連脇役たちの見せ場が続き、これは楽しかった。中でも、為五郎の債務者で芸者(娼妓?)の九里千春が、利子分をサービスしているというシーンが好きだ。寝間で「利子は出しわわよ」と云われた為五郎は「出したのはワシの方の気がする」と云う。あと、本作の佐藤友美のセクシーな魅力は書いておくべきと思う。

#備忘でその他の配役などを記述します。

・為五郎に、梓のことを調査した結果を報告する男は立原博。為五郎の事務所に、歯磨きと洗顔の自動機械を売り込む大泉滉高松しげお

・佐藤が経営するトルコ風呂の嬢に沖山秀子

・なべのヒッピー仲間には佐々木梨里がいる。梓の下宿のオバさんは水木涼子

・為五郎が金融法違反で逮捕される際の刑事は村上不二夫

・トルコ風呂からヤクザの親分を拉致したと思ったら財津一郎。きびしーい!

・手形のパクリ屋の親分で藤村有弘。得体の知れない煙草を喫ってラリった演技。

(評価:★3)

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