[コメント] Cloud クラウド(2024/日)
ただし近作『蛇の道』を見るに際して、旧作『蛇の道』及び『蜘蛛の瞳』を再見してしまったのが最近という私の感覚で云うならば、例えば『蜘蛛の瞳』の、あのぶっ飛んだ面白さはどこへ行ってしまったんだろうと云いたくなるレベルの、黒沢にしては普通の映画だ。
勿論、個人の映画の評価は、極めて私的な[満足度]/[期待度]に影響されるので、仮にこれが無名の新人監督の作品であれば、私とて、もう褒めちぎっていたかも知れない。というワケで、良い部分を中心に例示しておきます。まず、序盤に主人公−菅田将暉の周りで、アパートの階段にあるネズミの死骸だとか、バイクの通り道に仕掛けられた針金とか、こういうのを見せておくことが、スリル醸成に実に効いている。これらの効果もあり、前半はオフスペースが機能する(画面外が怖い)ショットが続く点。あるいは、中盤の舞台、群馬の森の中にある、湖畔の別荘みたいな家の佇まいもいい。こゝでも静かな恐怖が持続する。
対照的に、後半は怒涛のアクション活劇となり、それが唐突にトイレでボコボコにされる岡山天音から始まるという転調の妙。終盤の銃撃戦シーケンスでは、お得意の廃工場を舞台とするが、開けた場所に、戦争映画のような、『フルメタル・ジャケット』のような壊れた壁の遮蔽物がある、というのがいいじゃないか。ただし、菅田が拷問されるのをビデオカメラで映すという段取りが始まった際には「これ好きだなー」と思ってしまったが、なんか肩透かしに終わったのは少し残念に思った(バーナーで顔を焼くぐらいしても良かった。レイティングが変わってしまうかも知れないが)。
俳優だと、菅田の先輩−窪田正孝、職場の上司−荒川良々、岡山がゲーセンで会う男−吉岡睦雄といった面々が強烈な個性で良い仕事ぶりだと思うが、なんと云っても儲け役は、菅田の助手を演じる奥平大兼だろう。終盤はこの人が、得体の知れない奥行きのある造型で、まるで主人公のような役割になる。そんな中で紅一点、菅田の彼女−古川琴音の描き方については本作のウィークポイントになってしまっていて残念だ。彼女をもっと切なく描くことができていれば、と思う。
あと、後半の活劇導入部で、エスプレッソマシンがとても上手く使われる演出がある。これ、本作の一番のチャームポイントかも知れません(しかし、こんなスクリプト上のアイデアが一番のチャームポイントかも、と思わせること自体が本作の脆弱さを感じてしまうところでもある)。
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