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[コメント] ゴヤの名画と優しい泥棒(2020/英)

ロジャー・ミッシェルの遺作は、とてもよく出来た良い映画。本作が名画だと思う。クレジットバックは、スプリットスクリーン(画面分割)も使った英国映画らしい、お洒落な処理でワクワクさせる。
ゑぎ

 画面分割は、ロンドンの風景などでも使われるが、当時(1960年代)の記録フィルムなのだろう、荒い粒子の映像も沢山出て来る。こういったフッテージ挿入のリズム感もいい。

 主人公のジム・ブロードベントとその妻ヘレン・ミレンのアパートは、ロンドンから遠く離れた、ニューカッスルの町にある。このアパート近辺を映した画面の遠景に、度々煙を上げる煙突数本が見えている、という風景描写がいい。また、ブロードベントが刑務所から出所するシーンが2回あるが。青い壁とレンガ造りの建物で、こゝでも煙を吐き出す煙突が印象的。こういったロケーションが美しいのだ。そんな中で、ブロードベントもミレンも、その息子ジャッキー−フィオン・ホワイトヘッドも含めて皆とても可愛らしく演出されている。ジャッキーが親思いで、特に父親と仲が良い、というのもいいし、ミレンは、やかまし屋だが、要所でチャーミングな描写も挿まれるのだ。

 そして、本作も隠蔽と暴露のモチーフを描いた映画だ。ゴヤの絵画「ウェリントン侯爵」(The Duke)が隠されるのは勿論のこと、他にも、娘の写真、娘のことを書いた戯曲の原稿、娘の墓。いや、ミレンは、娘の存在自体を隠蔽しているかのようだ。あるいは、絵画の盗人(犯行場面は隠蔽される)、息子のジャッキーと恋人が窓から入って見るモノ、ブロードベントの刑務所への入所と出所。いずれにおいても、隠蔽から解放される(暴露される)展開と見せ方が奏功し、名状しがたい感慨を覚える。終盤はずっと涙を堪えながら見た。

 尚、気になる部分を一つだけ上げておく。ヘレン・ミレンの雇い主の婦人−アンナ・マックスウェル・マーティンの存在、特に法廷シーンでの彼女の所業は、ワザとらしいと感じる。こういうキャラを配置して、観客の共感性を昂進させる作りは昨今多いが、本作においては、ブロードベントの法廷でのパフォーマンスだけで、十分だと思うのだ。

#備忘。映画の引用

・ブロードベントが『ウエストサイド物語』を見に行かないかと云い、ミレンが映画にかけるお金はない、とピシャリと云うシーンがある。

・『007/ドクター・ノオ』。この引用も本作の満足感を高めている。

(評価:★4)

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