[コメント] 碁盤斬り(2024/日)
冒頭は、通りを歩く清原果耶の後ろ姿。彼女のショットを繋いでクレジット。長屋。大家の店賃催促。夕刻には、という声は草なぎ剛で、清原の父親だ。篆刻がもう仕上がる。納品先は吉原遊廓の女将−小泉今日子。この序盤のあたりで、白い光源や黄色というかオレンジ色の光源を取り入れた、ボヤけた(小さなハレーションのような)照明を映しこんだショットが多い。というか多過ぎる。これを凝った照明と云うこともできるが、私はイチイチ気になってしまった。
本作は全般に「良く出来た」と云ってもいい時代劇だと思うが、先に気に入らないところをもう少し書いたうえで、良いと思った部分をあげよう。まずは何と云っても、國村隼の質屋(萬屋)で起こる(月見の宴に淡路町の取引先から返金された)50両をめぐる作劇だ。特に、使用人の弥吉(國村の甥)−中川大志の独断的な振る舞いがアホ過ぎる。気になって原作落語も確認したが、明らかに本作のスクリプトのアレンジがまずいのだ(それを許容した監督の責任でもある)。実は、こういうスクリプトの瑕疵は、映画の本質という事柄から云うと、大したことのない部分だとも思っているのだが、しかし本作の場合、以降の場面では、中川が出てくるだけで、シラけてしまった。
あと、この月見の宴では、淡路町の客に続いて、彦根藩の侍−奥野瑛太が草なぎを訪ねて来る、という畳みかけの作劇になっていて、これは良いと思うのだが、こゝで挿入される回想フラッシュバックが宜しくない。いきなり画質が悪くなる処理がキライだし、何よりも、このシーンの斎藤工が良くないのだ。それは彼の演技というより、性急な演出が良くないということだ。あるいは、入水する草なぎの奥方(清原の母親)は中村優子か、彼女の見せ方もとってつけたようで可哀想そうじゃないか(いきなりのアップショットはインパクトがあるけれど)。
さて、良い点ということだと、私は一番最初に小泉のことを書きたくなる。中でも、小泉の座敷で、着物を着付け、帯を借りる清原の場面だ。こゝで(足抜けしようとした遊女への対応で)、小泉の二面性を見ることになる(実はこの辺りの清原の感慨も薄っぺらいけれど)。極楽と地獄。優しさと厳しさ。あるいは、「ケチ兵衛」から仏の源兵衛と呼ばれるようになる國村の二面性にも思いが及び、重層的なプロット構成だと感じる。
あと、脇役だと、奥野瑛太が後半かなり目立つ役を与えられていて、これは予想外だったので、嬉しい驚きだった。さらに、大晦日の両国で行われる大がかりな賭け碁会場の場面で出てくる、元締め役の市村正親の貫禄もいいし、何より、こゝで再登場する斎藤工の狡猾さとその開き直った暴れっぷりは本作のクライマックスに貢献する。ただし、全編で最も良いショットは、縁日の場面で清原と中川が再会した後の、吉原大門を背景にした清原のショットだ。これは中川の見た目ショットでもあり、望遠レンズで空間を圧縮した効果がよく出ていた。
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