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[コメント] 風よ あらしよ 劇場版(2024/日)

〈吹けよ あれよ 風よ あらしよ〉は伊藤野枝の言葉。最初「快傑ライオン丸」と思った不明を愧じる。☆4.1点。
死ぬまでシネマ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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体制とは〈男〉による搾取と抑圧に他ならないと痛感する。国家は戦争を起こし弱者を搾取するが、同じ構造が家庭の中にもあった。野枝は当たり前の声を上げ、大杉はそれに何度も救われる。しかし〈共助による(政府なき)社会〉は可能だろうか。狭い共同体でなく、人間の入れ替わりが激しい国単位や世界全体では、正直難しいと感じる。野枝は故郷の漁村にはその原型があったと語るが、一見役に立たず半ば無視されていたという正式な行政との、両輪が必要なのかも知れない。

しかし現代人間はますます他者から切り離され、LGBTQは性のくびきからの解放と見せながら、人間を愛から遠ざけかねない危うさを感じる。女から男に逃げてはいないか? 男から女に逃げていないか?

吉高由里子は最適解とはどうしても思えないのだが、違和感は野枝の演説あたりから霧消した。「花子とアン」('14/NHK)(小生未見)では「赤毛のアン」の翻訳者(村岡花子)を演じ、本作で伊藤野枝、…成る程ここで今年('24)の大河で紫式部に抜擢された理由が腑に落ちた。ビジュアル的にはまだ「…」だが、まさにこの人しかいないという配役だった訳だ。もう彼女を信頼して大河は最終話まで視切る事を誓うには誓うが(現在2月)、…他の日本女優達はどうしたのだ、とも言いたい。

〈眼の男〉大杉栄を演じられる俳優は少ないと思うのだが、永山瑛太は佳かった。最期に安らかな寝顔にも見えた死顔は、制作者の彼への温情だったのだろうか。あそこは甘粕を凝視した儘の形相であるべきではなかったか。 縊り残され歯を食い縛って戦い続けてきた大杉の無念。

女学生に格好つけたはいいがその後どんどん二枚舌・三面怪人に堕ちて行く辻潤に、稲垣吾郎はなかなかの適役。まぁビジュアル的には本当はリリーフランキーなんだろうけど、野枝も由里子だし女学生には稲垣に見えてしまったのだろうな。辻の限りない不甲斐なさには、自分自分も身につまされること頻りである。…

     ◆     ◆     ◆

更に蛇足。「日陰茶屋事件」の修羅場が存分に描かれ満足。怒鳴り込んできた主義者の中にマルクスが居て笑った(実在?)。現在も残る日陰茶屋の向かいには鐙摺城址があるが、鐙摺城には北条政子(「鎌倉殿の13人」では小池栄子)に「後妻打ち」を喰らった亀の前(江口のりこ)が一時逃げ込んでいた。男女の修羅場は続くのだなぁ(苦笑)。

(評価:★4)

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