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[コメント] リフレクション(2021/ウクライナ)

暴力空間と地続きの生活空間を生きるということ。島国で暮らす者には実感しづらいが、侵略され、それに抗うとは、そういゆことなのだ。この世を見晴るかすような部屋で暮らす医師は、暴力がすべての理屈に優先する地へ赴き、人間の理性と愚かさの両極を往還する。
ぽんしゅう

定点からの視線にこだわるヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ監督らしい医師が暮らす高層マンションの部屋の描写が印象的だ。画面の奥には世界に向けられた唯一の窓が存在する。それは額縁かスクリーンのようにそこに存在する。夜は明かりが点滅する高層建造物が遥かかなたに小さく見える。昼間は白く薄い膜がかかったような空が一面を占める。帰還した外科医(ロマン・ルツキー)は心の傷を抱えながら、普段は別居している娘(ニカ・ミスリツカ)とその部屋で二人で暮らし始める。

そして、その「窓」が、ある唐突な事件に見舞われる。原因は現実と虚像の境を曖昧にしてしまうリフレクション(反射/反映)だ。そこからの火葬。引き裂かれ燃やされる聖書。必然かもしれない不慮の骨折。仕組まれた死者との再会と別れ。そして激しく窓を打ち事件の“痕跡”を洗い流す雨。その偶然とも必然ともつかぬ出来事に導かれた再生へのステップが巧かつ美しく、説得力を持って迫ってきた。

この物語は、無邪気なだけに不気味な軍事訓練で始まり、耳をすまして互いの“関係”を認識するゲームのような訓練で幕を閉じる。示唆されたのは「希望」だと思いたい。

(評価:★5)

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