[コメント] 天上の花(2022/日)
言葉を吐き出すことで人の心の在りようを綴る詩人が、愛する者のために語るべき言葉を吐き出せないという哀れ。言ってしまえばこの男(三好達治)ただのDV野郎なのだが、自分自身でも制御できないその苦悩に“悲しみ”が滲み、私は思わず同情してしまった。
東出昌大の好演のたまものだろうか。それともこの男が醸し出す素の“どうしようもなさ”にゴシップにまみれた東出の素行がダブルからだろうか。
この男(三好達治)の横暴は、かつて軍人を目指したような根っからの封建志向だけでは説明がつかない気がする。酒にだらしないより、女にだらしない男の方がまだましだ、と喝破する朔太郎の妹・慶子(入山法子)の奔放さは、大正デモクラシーを謳歌した母親ゆずりで筋金入りのようだ。達治は慶子への愛を貫徹することで無意識に自らの封建指向に抗い、慶子が体現する制度の外に身を置く“奔放さ”との同化を試み、そして敗れ去ったように見えた。この男は“世相と志向”の壁を乗り越えられなったのだ。だから悲しいのだ。
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