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[コメント] ストーリー・オブ・マイ・ワイフ(2021/ハンガリー=独=仏=伊)

たいていの男がそうであるように、この男(ハイス・ナバー)も、その女を“自らの世界”の内側に所有し支配し制御しようとする。一方、女(レア・セイドゥー)にとってこの男は、自分の存在を確認するための“まわりの世界”を構成する一部(パーツ)なのだろう。
ぽんしゅう

男は世界を「自分の内側=幻想」のなかに求め、女は「自分の外側=現実」として享受しようとしている。何に幸福を求めるかというギャップ。近いようでいて、ふたつの“世界”は接点を結ばない。

これまで観たイルディコ・エニエディの二作品も“接点”の話だった。『私の20世紀』(1989)では孤児として生き別れた双子の姉妹が成人して詐欺師とテロリストとして交錯する。『心と体と』(2017)は食肉工場で共に働く男と女が就寝中の夢を共有することでつながる話だ。それぞれ数奇な、あるいは奇想のすえ“接点”を結ぶ。

一転、今回は「幻想」と「現実」を生きる接点を結ばない男と女の話なのだ。ところが、女に幻想を求めた男は苦悩のすえに最も「現実」的な解決手段選ぶ。その結果、現実の世界から消えた女は「幻想」となって男のまえに立ち現れる。なんという皮肉な接点の出現。イルディコ・エニエディは一筋縄ではいかない映画作家だ。

陽光のもと赤や青を強調した航海シーン。情感たっぷりに湿気を含んだ1920年代の夜の街。鏡と光を巧みに交錯させた酒場の狂騒(エドゥアール・マネの「フォリー・ベルジェールのバー」を彷彿とさせる)など、コケティシュなレア・セイドゥーとともに、撮影監督マルツェル・レーヴの端正な画づくりで2時間50分たっぷり楽しめた。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ひゅうちゃん ペペロンチーノ[*]

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