[コメント] 冬薔薇(ふゆそうび)(2022/日)
船長(船主)は小林薫。妻は余貴美子。小林が、我が子のことを語る場面で、伊藤健太郎が登場するのだが、それが後ろ姿から振り返る、意味あり気なスローのショットなので、てっきり回想(フラッシュバック)かと思った。しかし、同時刻の伊藤が、喧嘩というか、やられている半グレ仲間の助勢に向かう緊張の表情のクロスカッティングだったのだ。尚、同様の伊藤の振り返りショットはラストでも、冒頭に呼応させるように出て来る。また、本作は、この題材としては、全編、回想やフラッシュバックを使わずに作劇されており、これは美点だと思う。
尚、中盤で、ガット船の貨物艙の隅へカメラが落ちるようなミタメショットがあるのだが、これは、小林によるフラッシュバックと云えなくもないが、少なくも回想ではなく、イメージショットと云うべきだろう。
役者では、伊藤がつるむ半グレのリーダー格を永山絢斗がやっており、冒頭の喧嘩(助勢)シーンでの、一人泰然としている様など、別格の雰囲気を漂わせている。終盤、雪降る路地にうずくまる伊藤の前に、永山が現れるシーンが本作の最も良いシーンだと思う。路地の真俯瞰。手を差し出す永山の仰角と、伊藤の俯瞰の切り返し。あと伊藤の兄貴分の毎熊克哉、従兄の坂東龍汰ともに、安定した存在感だ。また、ガット船の、昔からの船員で、船を寝床にしている石橋蓮司も重要なキャラクターだ。特に、小林と石橋の関係の描写は、伊藤と他者との関係の対比となっているだろう。その他、親子の関係、夫婦の関係など考えさせられ、身につまされる部分も多いが、私は少々詰め込み過ぎにも感じた。役者の話を続けると、女優では、和田光沙と河合優実が出て来るが、いずれも出番は少ない。和田はベッドシーンもあるし(なぜかヌードは自粛するが)、印象に残る役柄だが、河合の見せ場はほとんどなく、この使い方は勿体なく感じる。
全体に、登場人物の抱える問題の収束のさせ方、というか収束させない加減が、複雑な感興を呼ぶ、クォリティの高い映画だと思ったが、私には、伊藤がとても優しく見えるのがシックリこなかった。コワモテ場面はほゞない。冒頭の喧嘩シーンもやられるだけだし、和田光沙にも暴力をふるう訳でもない。父母とのやりとりも、優しさが垣間見える。だからこそ、この帰結が怖い、という見方もできるが、私は少々違和感が残った。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (0 人) | 投票はまだありません |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。