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[コメント] わかれ雲(1951/日)

穿った天邪鬼の生態考察で『愛撫』の変奏の趣。私もその気があるのでイタい映画だった。沢村契恵子好演。五所らしい脇役の活写も愉しくドラ娘倉田マユミが印象的。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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冒頭、元祖アンノン族の娘5人が小海線を小諸までの途中、乗り替え駅で時間つぶしの田舎見物。路上での農産物販売をクラシカルと評してキャッキャ騒いている。これは少し衝撃的なシーンだった。沢村契恵子が倒れて川崎弘子に助けられ、彼女が仲居をしている駅前の旅館に運び込まれて医師の沼田曜一の診断は軽い肺炎。「私死ぬんですか」と聞く沢村を笑い飛ばして10日間安静の診断。

沢村は看病はいらないと4人を旅立たせる。彼女等はお母さんが違うから天邪鬼だと批評。病床の窓の向こうを汽笛鳴らして汽車が行くのを背を向けて目を開けて横になっている沢村が本作のベストショットで、愉しいことに背いて私はこうでいいんだという天邪鬼の心情が滲んでいた。継母福田妙子が見舞いにやって来るが、仲居たちは姉妹みたいと噂する若さ。持ってきてもらったロマン・ロランを沢村は読みはじめ、今ならスマホ見ているようなものだ、ギコチない時間が流れる。

沼田は村の診療所勤めで、この時代らしい地域で頑張る男という理想像。バラックの診療所は廊下まで患者で溢れ、庭で山羊飼って乳しぼり。「あと二三日で東京に帰れる」と診断すると沢村はむくれ、「貴女には治らない方がいいでしょうが」と正論を云われてしまう。医者に罹らず死ぬ人もいると山奥の分教所で集団検診。沼田が気になる沢村がバスに飛び乗って行ってみると、かねて話題に出ていた「おさわり様」の祈祷やっているのが軒先から覗かれる。太鼓が叩かれ祈祷のお婆さんが祈っている。

仲居の川崎弘子は沢村を可愛がり、元は東京の人、ここは死んだ娘の疎開先と語る。ふたりは、母のない子と子のない母とのしみじみとした関係。中年の川崎はこんな役が板についていた。『大阪の宿』(54)もそうだった。最後は父親の三井田健が訪問し、すると沢村は御機嫌になり、父を継母に取られたのが嫌だったのだと判明。他愛ないがそうしたものだという学びもなるのだった。父娘の影法師のワンカットが美しく撮られている。沢村は「お母さんひとり愛せないで、世の中は愛せない」と諭され、母の持ってきたセーターに袖を通す。タイトルは別れに際しての沼田の「雲がきれいだ」から取られている。

宿の主人は中村是好岡村文子の豪華版。アコーディオンが遠くから聞こえ、仲居は呑んでいるといういい風情の夜の描写があった。ドラ娘倉田マユミが和室で創作バレー踊るという素っ頓狂な断片。岡村はこれ教えているちょび髭の男の縁談を画策しているが、娘は詐欺師と知って旅行からひとり戻り、岡村は泣いている。占領下、こんな地方でも踏切には英語で書かれた×印の標識が出ている。

(評価:★5)

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