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[コメント] リスペクト(2021/米)

これはとても見応えのある音楽伝記映画。概ね10歳から30歳までのアレサ・フランクリンの半生が描かれる。画面のほとんどはローキー気味。夜と曇天。スカッとした晴天の画面はほゞ無い。
ゑぎ

 冒頭は、幼いアレサが、父親−フォレスト・ウィテカーに起こされて、自宅で行われているパーティで唄う場面。このパーティには、エラ・フィッツジェラルドダイナ・ワシントンがいる、という音楽環境なのだ。実はこゝの歌唱シーン以上に、続く、別居している母親とのシーンでの、二人でピアノを弾きながら、ゴスペルに乗せて会話する演出に、音楽映画としてワクワクさせられた。やはり、しっかり唄える子役をキャスティングしているのがいい。

 そして、ジェニファー・ハドソンへ、リレーする際の演出がまたカッコいいのだ。本編中では初めて教会でゴスペルを独唱するシーンだが、まずは、唄い出して、やゝあってから「バーミンガム、アラバマ」という地名のテロップが出る。この瞬間にゾクゾクする。カメラが360度パンニングしているうちに、小さなアレサが、ハドソンに入れ替わっている、という見せ方だ。こういう演出も今や常套だが、テロップの挿入タイミング含めて唸ってしまった。

 歌唱場面では、勿論、エンディングの1972年のチャーチコンサートにおける、「Amazing Grace」がクライマックスだし、大ヒット曲で本作タイトルでもある「Respect」や、ヨーロッパツアー中の「Think」といった有名曲の場面も見事なのだが、コロンビアからアトランティックレコードへ移籍して初めてのレコーディング場面(アラバマ州マッスルショールズのフェイムスタジオ)が出色の出来だと私は思った。彼女の初めてのヒット曲、ということもあって、入念な演出が施されているからだが、こゝのセッションでの、ミュージシャンたちと、一緒に音楽を作っていく感じが素晴らしいのだ。

 さて、終盤になると酒に溺れ、周囲の信頼を裏切って行く、というお定まりのパターンになるのだが、本作では、ドロドロした部分は深く描かず、サラッと仕上げている。また、ローティーンでの妊娠出産という出来事と、心の傷について、ほとんど端折られてしまうのも、ちょっと食い足りなくは思うのだが、この意味深な見せ方も戦略として了解できる。あるいは、中盤以降、父親−ウィテカーとの仲違いが反復して描かれるが、その度に、再会すると、時間が解決したかのように、ウィテカーが軟化している、という描写も、私はいいと思った。それぞれ丁寧な演出だ。

 本作のウィテカーについては、久しぶりに良い役者だと思った。牧師としての演説(説教)場面の迫力も凄い。キング牧師以上に迫力がある(本作中の役者の対比)。あと、主演のジェニファー・ハドソンも、以前と比べて、顔も引き締まり、シャープな印象を与える。ちょっと綺麗になったと思った。

(評価:★4)

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