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[コメント] 花ちりぬ(1938/日)

蛤御門の変を扱う。キャメラはお茶屋を一歩も出ず登場するのは女優だけという作劇だがトリッキーさはなく、女たちの戦争を演劇的に丁寧に描いている。流麗でしっとりした好篇。振袖で嬌声あげて踊り笑う可憐な舞妓たちが儚くその後が気になる。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







当時「戦争」という言葉はないだろうに「戦争」と連呼されるのは、戦中の反映で意図的なのだろう。池田屋事件の直後で、新撰組の幽霊が出ると噂され、出たらとっちめてやると冗談が交わされるなか、本当に新撰組がやってきて女将を連行する。朝廷側の新撰組を悪し様に描くのも大胆。

舞妓が六人、振袖で嬌声あげて踊り笑う件がインターミッションとして数回繰り返されてとても華やか。「えらい戦争」「あっしは見て参る」女将に止められまた嬌声。まつ葉姉さん一ノ瀬あや子に三味習い。室外のない予算を傾注したのか美術も豪勢でいい。

他の芸妓は出戻りだったり旦那を取り合ったり女中が自己卑下したり。「こんなザワザワしたときに」という科白が反復され、車座で噂を交換し、みんな実家へ一旦逃げようと荷造りが始まる。大砲の音がする。女将戻って烏丸通りは人で一杯、伏見では戦。

女将の実子花井蘭子は長州の武士と云い交わしていて、迎えに来ると記した彼からの手紙を何度でも読んでいた。閂かけた玄関が叩かれ、「斬られはった」とフレーム外から声がして、花井は彼かと開けようとして危ないと止められる。訪ねて来るのは彼しかいないと気づき、後で後悔する。「長州は朝敵」の噂が届いて愕然とする。河原町の長州屋敷は焼かれた。長州の負け戦。ラストで花井は物干し台から外眺めて手紙落とす。半鐘と大砲の音が交錯している。お茶屋から出てゆく夢は消え、彼女には疎開先もない。この後半の「疎開」の強調も、数年後の本邦の現実を予言しているかのようだ。

(評価:★4)

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