[コメント] 花札渡世(1967/日)
まず登場人物はシンプルな構成で、皆強い造型だ。ナレーションもつとめる主役の梅宮辰夫は、本人が自認する通り畢竟のはまり役じゃないか。ヒロインは鰐淵晴子。彼女のルックスと役作りもいつもとちょっと違って凝っている。勿論抜群に綺麗だが、影のある表情(メイク)と気だるい台詞回しなのだ。鰐淵とグルのイカサマ師が伴淳三郎で、いつもながらの存在感。その他、梅宮が世話になっている親分で遠藤辰雄。その弟分の安部徹。遠藤の娘で小林千登勢。伴淳と鰐淵を追っている警官で西村晃と出て来るが、これでほゞ主要キャストを紹介したことになるシンプルさだ。そして全員に強烈なシーンが与えられている、バランスの取れた作劇なのだ。しかも、ラストで敵の組織に単身殴り込み、大乱闘になる、といったよくある展開ではない。主要キャストの中では、小林千登勢の悪女ぶりも特筆に値するだろう。この人にとっても本作は代表作と云うべきだ。
さて、本作でも、成沢昌茂がスジとドウサ(アクターズ・ディレクション)だけの人ではない、という感慨を持つ画面造型及び音の使い方が多々ある。いくつか例をあげると、まず、花札の絵柄を使った季節の転換を何度かやる。梅に鶯の絵柄から、梅の木のカットへ繋ぐなど。これで時空をジャンプするという趣向だ。アクション演出だと、遠藤が玄関口で、振り向きざまに斬りかかる場面。こゝの斬り合いは大した迫力だ。続いて、梅宮が勝手口から池端へ降りた後、若い衆との乱闘シーンで見せる刀を合わせた時の火花。これにも吃驚するが、さらに唐突に雨が降り出すという様式的な演出の連打。こういう過剰さこそ映画だと思う。ちなみに、この勝手口の下にある小さな池がいい装置なのだ。あるいは、賭場のシーンの花札を切る音。終盤のホテルの一室でのムード歌謡みたいな劇伴使いも素晴らしい。このホテルのシーンはネオンサインの取入れや窓の使い方にも感嘆する、こゝが全編でも最も良いシーンかも知れない。ただし、ラストカットも凄い。杉大門裏の墓場から、通り側を映した俯瞰カットで、画面奥に出征兵士の行進と、さらにその後景にビルが見える(ビルは書割と思う)という、驚きのあるカットで唸る。ラストまで演出の濃度は高い。
#小林と梅宮が二人で新宿の武蔵野館でトーキー映画を見た、という科白がある。
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