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[コメント] 乱世備忘 僕らの雨傘運動(2016/香港)

雨傘運動から7年、香港の民主派新聞「リンゴ日報」が廃刊になった2021年6月24日の2日後に鑑賞。映画の後半「20年後も自分は、あきらめて現状を受け入れている今の大人たちのようには絶対になっていない」と言っていた青年は、今どこで何を考えているのだろう。
ぽんしゅう

撮影者チャン・ジーウンの手持ちカメラは彼の目となって、若者たちの一人として「彼らの群れ」のなかから一人称で「出来事」を記録し続ける。香港の民主化運動といえば日本では周庭(アグネス・チョウ)が有名だが、本作では彼女のようなスター活動家は登場しない。文字どうり偶像(アイドル)としてテレビのなかの影(憧れの女神)となって一瞬映るだけだ。

周庭のような運動の中心(指導層)の対極に位置する最前線の「群れ」のなかの若者たちは、まるで学園祭のノリで、自分たちの行動に興奮し、無邪気にはしゃぎ、無防備に理屈の力を信じ、妙な自信にあふれている。そんな集団の空気と、その空気に高揚する若者の気分が活き活きと伝わってくる。

やがて彼らの純真過ぎる望み(要求)は、警察権力の暴力に接し「どうして同じ香港人なのに?」という疑問(実はそれは甘えなのだが)とともに踏みにじられる。さらに「街頭占拠」という彼らが正義のために作った壁は、運動の路線対立という内側と、市民感情の悪化という外側の二つの壁に囲まれて身動きがとれなくなる。

そして彼らは、不本意ながら自分たちが築いた「街頭占拠」という壁を自ら壊して、その外へ出ざるを得なくなる。彼らを阻んだ壁とは、自分とは異なる価値観の人々の存在だ。つまり彼らは民主主義の原点である、民主主義の実践手段としての「壁」の限界に直面したのだ。。香港の若者たちが幼く無知なのではない。有史以来、世界中のさまざまな場所で、人は壁を作っては壊し、いまだに民主主義という難題と格闘している。

雨傘運動は香港統治の長い歴史からみれば、ほんの79日間という一瞬の出来事にすぎない。一瞬だったからこそ彼らの意思はとても強固にもみえたし、華やかだがパッと散る花火のようにもみえた。当時、若者たちが対峙していたのは香港警察だったが、その後いくつかの経緯を経て背後にいた巨大権力、中国共産党を本気にさせてしまった。これからどうなるのだろう。

そういえば映画は近代的なビル群の谷間に打ち上げられる美しい花火の連発を合図のように幕を開けた。また花火は上がるのだろうか。

(評価:★4)

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