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[コメント] TENET テネット(2020/米)

解決編というか、続編が欲しくなる作品だ。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 2020年に公開された本作は公開前から何かと話題を振りまいていた。時間を用いた面倒くさい作品だとか、IMAXを前提に、しかもデジタルではなくフィルム撮影だとか、小出しにされる情報に私自身もワクワクさせられた。2020年の作品の中で「大作」と呼べるものも少なかったこともあって、これこそ期待の超大作だった。

 ところがいざ2020年になったら、今度は新型コロナウイルスの蔓延によって公開延期。それ以前に映画館が軒並み封鎖されてしまうと言う異常事態となってしまった。

 世界中で死者が出ており、外出自粛の事態である事は分かっているが、映画館に行けないのはやっぱり辛かった。

 そんな中、公開されたら絶対に観る作品の筆頭へと本作は変わっていった。自粛期間中も観たい観たいという気持ちがどんどん膨れ上がる。

 それで公開した時は、当然の如くIMAXで観に行った。さすがIMAX前提の作品。きちんと計算されたド派手さ。本物へのこだわりは、実物大のジャンボジェットを作ってそれを激突させて壊すとか、フィルム逆回しのみ用いて時間順行と時間遡行のキャラの絡みでアクションシーンを撮るとか相当面白いアイディアにも溢れてる。それをアクションとしてきちんと映像化するのもたいしたものだ。観てる間脳の処理能力をぶん回してる感じがあって、実に濃密な時間だったし、「気持ちよく頭使ったわ」としみじみ思える話だった。

 演出部分に関しては言うなら、近年希に見る迫力で、大満足である。

 ただ、それだけで終えてはいけない作品でもある。SF作品として本作を見るならば、設定上いくつもの考えるべきところがある。ストーリー自体を理解するのが困難なのだ。

 本作を緻密なSFとして観る向きもあるだろう。ただそれは緻密というか、なんとなく面倒くさいことを言ってるから、なんか凄く細かい設定があるような気がするというレベルのことである。むしろSF作品として本作を観るならば、大味だしいろんなほころびも多いというのが本音だ。私はかなり好きな作品だが、監督の出世作メメントにあった矛盾点があんまり改善されていない印象を持つ。

 本作の概ねは把握できる。

 そんなに遠くない未来で世界を破壊する破壊兵器が作られてしまうのだが、未来では何らかの要素でそれを発動させられない。だからそれを作った未来人は、同じく未来で作られた時間遡航装置の中にそれを入れ、過去に送り込む。この際、時間遡航を止め時間巡航にするため、もう一つの小型の時間遡航装置と、それを操作する人間を同時に送り込むことになったはず。ただし過去に向かったこの人間が誰かは明らかにされておらず、登場もしない。ただこの装置を使わせるためにセイターに向けてメッセージとマニュアル、そして未来に何が起こるかを記した記録書を残した人物だろうと思われる。

 そのメッセージとマニュアルを駆使することによってセイターは未来予測によって、時には時間遡航の能力も用いて大金持ちとなる。

 そしてセイターの目的は自分の寿命が近々尽きるので、それに合わせて世界も滅ぼそうとする。短絡的な思考だが、手塚治虫の漫画「MW」の主人公結城美知夫もそんな感じだった。宗教も倫理も持たないサイコパスが考えることはこう言うものだと受け取るしかない。そんなセイターに従う部下達も気の毒だが、騙されたか莫大な金積まれたか、それともカルト宗教のように世界の終わりを思い描いていたか。

 対してそれを防ごうとする人も未来にいた。そして恐らく先行する時間遡行人物とは違った形でメッセージを過去に送った。それは複数いたかもしれないが(立派な時間遡行装置が存在することから、設計図を送った人物がいたとも思う)、少なくとも本作の主人公の名の無い男がその一人である事は確かだ。彼は過去にいる自分自身へのメッセージを、未来で知り合ったニールという男に託して過去に返す。

 そしてニールは数年の遡行期間を経て通常の時間に戻り、いくつかの用意をした上で名のない男の前に現れ、何も知らないふりをして彼を導いていく。

 これが大きな流れになる。劇中の時間の中で装置が何カ所か使われているために話はややこしく見えていくし、一見失敗に見えることも最終的な成功に至るための伏線となっていく。それらは全て事情を知っているニールによってコントロールされていたことが分かる。

 結果として名のない男はニールによる正しい選択に導かれて世界を破滅から救う。

 この大きな流れを把握していくと、概ねここまでは分かるのだ。しかしあくまで概ねであり、きちんとストーリーを把握するためには何度か繰り返して観る必要がある。私には映画館でそれをやる根性もないので、後はネットでの情報と、あるいはソフトを購入して補強してみることにしたい。

 現時点ではまだまだ疑問点が山ほどある。

 未来は確定しているのか、それとも違っているのか、地球が滅ぶ時間軸があったとしたら、滅んだ地球からどうやって過去に戻ったのか、その明確な答えが見えていない。

 あと、主人公たちは同一時間上に二人は存在するのだが、正しい選択を探すという作品の都合上で言うならば、更に多くの本人が登場して然りである。その辺の整合性がどうなってるのかとか、まだまだ疑問は多い。

 時を遡行する人は温度が逆転すると言うが、どの温度が起点になるのか分からない。摂氏0度が中間点だと、遡行する人にとってこの世界の温度はマイナス20度程度になるし、爆発に巻き込まれたら一瞬で絶対0度に到達するため生きていられない。ここは私の理解不足だろうか?

 更に根本的な問題だが、誰がセイターにそのメッセージを送ったのかが分からない事がもやっとする。前述の通りその人物は恐らくこの世界の時間軸にいるはず。そしてこの一連の事件をコントロールする本当の黒幕のはずなのだが、彼が一体何を思って世界を滅ぼそうとしているのか全く不明だし、ひょっとしたら登場人物の中にその人物は存在したのかもしれないのだが、匂わせるところが全くないので正体が分からないまま。

 そしてその人物が登場せず、説明してくれないため、未来ではなく過去で地球を滅ぼす意味がはっきりと説明できない。逆にもし未来が確定しているのならば、当然世界の破滅は阻止されることが前提である。ならば阻止された上で何を求めているのかというのが問題になるのだが、説明が無いので、それも分からないまま。

 そのあたりが心の中に落ち着いていないので、点数があと一歩伸びない。

(評価:★4)

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