[コメント] 人生劇場(1983/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
明治末期の冒頭は駆け足で、下手糞な子役と若山富三郎のベタ劇伴も最初からトップギア、ナレーションが金子信雄というのも偽物の味(ナレーションは途中から全くなくなる)。
大正、早稲田。松坂慶子は初対面の永島敏行に「学生は嫌い、慶應も早稲田も、みんな乱暴なんだもん、けど貴方は違うみたい」と云う。バンカラ学生ってのは総長夫人の銅像建立事件に端を発する、民政党と憲政会をそれぞれ背景にした学内派閥の対立。これは史実らしく興味深い(内田吐夢も青春篇(未見)で描いたのだろう)。
永島は、どちらも駄目だ、奴等は学園闘争を政治に利用しようとしている、学の独立の弾圧は恐怖政治だと演説し、学生たちは講堂占拠して「大学は我らの家だ」と抵抗する。この見解、二大政党の対立の泥沼が軍の支配を許したという政治史の一頁にすっぽり収まるのが禍々しい。永島もまた、軍支配を待望しているようにも見えるのだ。
永島は官憲と衝突して退学。以下は、どうでもいいような新人作家の出世と娼婦の哀しみと没落するやくざの三大噺。主人公がどんどん印象薄くなるのは先行作と同じで、これは原作の欠陥なのだろう。永島の幼馴染中井貴恵は清楚過ぎて娼婦役は痛々しく、見ていられない。
若山は出所後、上海で失敗して帰ってきている。借金残して親父の三船はピストル自殺、その次のショットで、永島は松坂の抽斗から見つけた「ハート美人」なるコンドームを手に取って眺めるという繋ぎは何なのだろう。松坂に喰わせて貰って売春していたと知って逃げてしまう永島に感情移入するのは難しい。
懸賞小説に落選して当選した森下に捨てられる奥田瑛二なんて展開はもう、森下のオッパイを見せるためにだけあるつまみ食い。終盤は松坂と中井と森下を交互に出し入れしているだけの演出で退屈。はやくこの映画終わんないかなと思わされる。
松の廊下で吉良の仁吉が乱入する吉良、という冒頭の逸話が面白い。横浜開港60周年記念式典、すでに文字が浮き上がる仕掛け花火がある。西村晃の親分の出入りにおける弾出ないピストルのギャグがいい。菅貫太郎は伴淳の線だろうが退屈。主題歌は懐かしい唄だが♪吉良の仁吉は男でござるには比べものにならない。セットがセットにしか見えない照明は安いし、劇伴のディストーションギターもTVドラマみたいで安い80年代。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (0 人) | 投票はまだありません |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。