[コメント] 自来也(忍術三妖伝)(1937/日)
タイトルの「三妖伝」とは主人公の自来也−片岡千恵蔵、ヒロインの綱手−星玲子、悪役−大蛇丸(おろちまる)−瀬川路三郎を指していて、皆、忍術というよりは妖術を使う。プロット構成はシンプルなもので、幼き日に父母を殺された自来也の敵討ちをメインのプロットとする。敵はボスが今や京都所司代になっている佐久間正盛−河部五郎、部下に矢尾郡太夫−志村喬と五十嵐典膳−尾上華丈。大蛇丸は敵側の刺客のような位置づけだ。ヒロイン綱手は、自来也が旅の途中で知り合う剣士(男性に見えるという設定)で、はじめは反目というかケンカみたいなやりとりをしているが、終盤になって、自来也と同様、綱手にとっても佐久間が敵だと分かる。
良いショット・演出は沢山ある。開巻は平原を駈ける騎馬−野武士たち。こゝから城へ火矢を射掛けて攻め入り、城主や奥方を斬り、少年をさらって逃げる。奥方は香住佐代子か。志村喬の笑う顔。穴に蹴り落とされる少年。去っていく侍たちを映した逆光ショット。これを畳み掛けて見せる見事な演出だ。続いて長い杖をついた男が現れる。ディゾルブで消え、少年を抱えて山の岩に置く。山と雲海。成長した少年は片岡千恵蔵で、杖の仙人は香川良介。敵の名前と居所を教えてくれる。指を回して印を結び、消える千恵蔵−自来也。俯瞰の山と雲海から、仰角の空の雲に繋ぐ悠然たる演出の後、自来也の復讐が始まる。
千恵蔵の殺陣シーンでは、ガマガエルへの変身というお約束の見せ場もあるけれど、二重露光やカッティングで神出鬼没に消えたり現れたりを繰り返す見せ方が実にワクワクする。あるいはゆっくり千恵蔵に寄ったり引いたりする画面もカッコいい。中盤の自来也と綱手が関所の役人に止められて始まる立ち回りシーンでは、唐突に2人が消えて屋根の上にいるロングショットなんてセンスがあるし、この後、川だろうか2人が水の上を歩き、役人たちは追いかけられないという場面もいい画面だ。クライマックス、京都所司代の屋敷の中で見せる、酒宴の移動撮影から天井の蜘蛛の巣へのフォーカスイン、アウトを繋げる演出も素晴らしい視点移動。蜘蛛は綱手に変身する。でっかいガマガエルの口の中に吸い込まれる敵の家来たちの画面も面白い。大ガマの上に乗った千恵蔵へ寄る仰角ショット。見えを切る千恵蔵はクサいことはクサいが、しかし迫力も満点だ。
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