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[コメント] ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから(2020/米)

常に更新を続ける思想の実験場・アメリカ青春映画、最前線の最先端。青少年が皆愛おしく、サヨナラするのはつらいけど、時間だよ。仕方がない。
ペンクロフ

今を生きる映画だぜ、現代の先っちょの若者映画だぜと実感するのは、登場する若人たちが当たり前に全員スマホを使いこなし、SNSでズルズルに意思疎通しまくっている点。少女エリーはレポートの代筆もモバイルPCでこなす。誰もがITで繋がっている現代、しかし彼らが暮らす土地は圧倒的に田舎で、車がないと弱者で、地元のバカはピックアップトラックで泥はねて王様気取り。『フットルース』かよ。教養は今なお紙の本に宿り、田舎の土人は罵声を投げつけ、発表会(文化祭みたいなもんか)は大はしゃぎのバカの天下だ。オラこんな村やだ。

少女エリーと少年ポールの「シラノ・ド・ベルジュラック」大作戦を繊細な演出と大胆な編集で描きつつ、マドンナの描き方もフェアなんだ。美貌を持て余し、人気者バカの「トロフィー彼女」でいることに居心地悪さを感じつつ、内に芽生える表現欲求に戸惑いながら生きている普通の女の子だ。少女エリーのマドンナへの慕情、教養ばかりあっても心のままに動けぬ苦しさ、少年ポールの善良さに救われつつ、あーもう3人はいろいろあって甘酸っぱくて苦くて甘くて大変なんだ。

マトリックス』シリーズでネオと互角に闘った護衛プログラムのセラフこと、コリン・チョウ演じる父親がいい。映画ばかり観てるこのオヤジは、よくあるファミリー映画のようにめざましい解決をもたらしたりはしない。娘との会話も最小限。ただ飯を作り、一緒に食べる。中国系アメリカ人の家族愛ってこうなんだろうな。抱き合ってアイシテルヨーとか言わない。大学への道を示し、娘の人生に最小限の介入をする。この映画は小さな脇役、高校の先生や田舎のバカも含め、全方位に愛情が深くてどこかで人間性を尊重しており、頭が下がる。今どきの青春映画は本当にレベル高い。別にどんどんレベル高くしろとこっちが頼んだわけじゃないんだけど、ここまで立派な映画を観せられるとグウの音も出ません。

(評価:★4)

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