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[コメント] 呪われた城(1949/米)

監督処女作とは思えない堂々たる演出ぶりだ。そして、1947年(翌年)の『幽霊と未亡人』や、1949年の『他人の家』同様に、本作も屋敷が主人公と云いたくなるような豪邸が舞台であり、今は亡き人の肖像画と、その呪縛の映画でもある。(本作の製作年は1946年)
ゑぎ

 ちなみに本作の原題「ドラゴンウィック DRAGONWYCK」は、ヴィンセント・プライスが主人で、ジーン・ティアニーが訪れる邸(城)の名前であり、邦題にある「呪われた」というのは、プライスの曾祖母の霊に呪われている、という状況を指していて、この曾祖母の肖像画が象徴的に使われるのだ。

 カメラワークでは、人物の切り返し(リバースショット)で、ほゞ正面のバストショットを持って来る箇所が数カ所あり、目を引く。あるいは、背の高いプライスの仰角と、座っているティアニーの俯瞰の切り返し。全体にティアニーのバストショットは、くらくらするような美しさだ。仰角俯瞰で云うと、ティアニーの、つましい実家(ウォルター・ヒューストンアン・リヴェールが父母に扮する敬虔なクリスチャンの農家)の場面では、ドラゴンウィックの広い屋敷と対比するように、仰角で低い天井を映り込ませるカットを使っている。このあたりの画面設計は、撮影者アーサー・C・ミラーらしさ、というべきかも知れない。

 しかし、祭りの日の夜の舞踏会のシーンで、プライスとティアニーが屋外のバルコニーからダンスしながら屋内に入り、延々と回転する様を、後退移動で捉え続ける緊張感あふれるカットなんかは、撮影者のアイデア以上に、演出家の創意のように思われる、素晴らしいダンスシーンの造型だ。

 尚、中盤、後半とプロット展開は複雑というか、少なくもシンプルな構成でなく、もたつく感がある。プライスの娘カトリーヌ(これが、こういっちゃ何だが顔が気持ち悪い。マーガレット・オブライエンの顔を陥没させたような子役なのだが、演技は上手い)や、最初のメイド、スプリング・バイイントンが、中盤で不在になっている状況について特に語らない部分なんかも、別に、私は悪いとは思わないが、繋ぎのスムーズさを欠いているのは確かだろう。ただし、交替したメイドがジェシカ・タンディで、肢体不自由者(足が悪い女性)を演じており、彼女のバイプレイヤーとしての実力も、ようく感じることができる。プライスが「不具が近くにいると気が滅入る」と云い、これにティアニーが怒る演出のバランス感覚に唸る。

#ヴィンセント・プライスの娘カトリーヌが、父母から愛されていず、自分も、父母を愛していない、という興味深い設定なのだが、この設定が、中途半端に放棄されるのは残念。

(評価:★4)

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