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[コメント] ぼんとリンちゃん(2014/日)

わたくしの如きおっさんにとっては遠い記憶となった煩悶が、若者にとっては現在自分を取り囲む世界そのものであること。年代とともに若者は入れ替わり続け、しかしいつの世にも若者は煩悶していること。
ペンクロフ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「とらのあな」「すーぱーそに子カフェ」「べびちゃんの自宅」はまるで胎内のような空間だ。ノーストレス空間とノーストレス人間関係の中で、活き活きと借り物の言葉で一席ぶつ「ぼんちゃん」。彼女が探す腐女子友達「肉便器」は胎内から出ざるを得ず、世間の冷たい水の中でかりそめの承認欲求を満たす。ステージを異にする2人が激突するクライマックスの長回しは圧巻だ。2人は互いの欺瞞を暴きあい、同意に至らず別れる。ラストシーンはすっかりぬくぬく空間に戻った「ぼんちゃん」で、まーそりゃそうだよな、人間そう簡単には変わらんわなとなる。東京で少しばかり現実の苦さを味わっても、実家に帰ればゲーム三昧、三度の飯も出てくる。たぶん彼女は処女(信仰)を捨てるまで変わらない。

中年オタク「べびちゃん」はたぶん、もう死ぬまで変わらない。志ん生の出囃子流れるモツ鍋屋でグダグダのたくり、あれこれこじらせたまま死ぬまで生き、死んだら死ぬ。自分を見ているようで気持ち悪かったぜ。

オレはこの映画いちばんの邪悪は「リンちゃん」だと思った。彼は何かを決めることがない。「ぼんちゃん」に唯々諾々と従う、やれやれ系イケメン。彼は終始傍観者であり続ける。少なくとも「ぼんちゃん」は闇雲に何かにぶつかっていき、傷つく可能性、変わる可能性、成長する可能性を持っている。こいつにはそれもない。こういうやつがいちばんアカンと思ったな。

この映画は現代のオタクの精神性を扱っているものの、それはある種の若者像として普遍的なもので、オタク文化に対しての偏見や侮蔑、侮りはあんまり感じられない。むしろ念入りに作りこまれたキャラクターには、彼らへの作り手の愛情が感じられる。その仄かな温もりが、映画と映画を観る我々を救ってくれていると思った。

(評価:★4)

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