[コメント] われらの時代(1959/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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「日本の若い青年に希望はない。桃色遊戯と殴り合いで発散させる。飛び込むことのできない若者は、孤独の中、老いぼれるのを待っている」と独白する長門裕之は太陽族を相対化している。フランス留学のための「君たちの時代」とかいう論文コンクールに応募しており、身綺麗にしようとノンポリ、安保改定阻止の署名をせず「無関心でいたいんだ」と断って殴られている。
長門は吉行和子にフランス語教える。喫茶店で勉強、ふたりとも水しか注文しないという件があり、こんな居座り方が当時は許されたらしい、なんと寛容な世の中だったことか(ウェイトレスは不満そうだが)。長門は雨の路地で見事に転倒して、吉行に「体力がない」と呆れられている。シュミーズ姿の吉行が可愛い。幼い彼女のぎこちなさが映画にマッチしている。
長門は過激派らしい神山繁からアラブ人ポール・ラッファロを知り、応募しているコンクールを主催している出版社は反動的で抗議してくれと頼まれる。何度も頼まれてついに決行し、一旦決まったフランス留学は中止になる。フランス大使館員は、自分は兄をアラブ人に殺されたと怒る。
これでもって長門のアラブ贔屓の軽薄さが断罪された、というニュアンスがいくらか映画にはあり、白坂の狙いだったかも知れないがその感想は違うだろう。侵攻して殺すのと抵抗して殺すのとはものが違う。それを理解しなかった長門の不幸、という解釈を(誤読だろうとも)積極的にするべきだろうと思う。「俺は見栄でノンと云った。長門が本当はフランスに行きたいんだ」と神山に告白し、「だらしなく生きていくのだ」と独白するラストは、アラブ人に気の毒だった。アラブ人の告白に主体的に参加できなかった自分の不幸と長門はいつか知るだろう。
並行してジャズバンド三人組のテロが描かれ、こちらが太陽族っぽい。ベースレスのクラリネット、ピアノとドラムのトリオで山下洋輔トリオが想起され、格好いいフリー寄りのジャズだが支配人の金子信雄はアホダラ教と貶している。小高雄二は朝鮮人で爆弾をつくる。天皇が怖くて、お袋が天皇が来ると脅したから寝小便が治ったと告白している。だが爆弾で誰を狙うかという議論では、「天皇は優しそうだ」と候補から外れる。どうせなら、そうすればもの凄い映画になったこと必定だが。丸の内あたりで財界人狙って女子便所のドタバタで失敗、この件があまり撮れていないのが詰まらなかった。ここがいい悲喜劇にできたら秀作だっただろう。最後は仲間割れ。
また、同性愛が匂わされるが背景に留まった。このクラブで猫飼っている知的障碍らしい娘弘村良子がいい。小高の弟が押し倒すと顔から血を流した猫が出てくるというキビシいショットがあった。この弟が窓から転落して死ぬ件は人形がいい活躍。
靴磨きに文句云う米兵の導入、姉の渡辺美佐子の妾の太っちょのアメリカ人(「あの人日本語できるのよ」といういいギャグがあるが、相手はバカではないという含みだろう)。長門は最後に上空を飛ぶ米軍機を見上げる。反米意識が明快に示されている。
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