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[コメント] アンティゴネー(1992/独=仏)

ブレヒト版を原作とする有名な史劇。アクションは殆ど全て噂で示される禁欲世界。王が二、三度演技するので吃驚した。俳優が演技して吃驚させられるのはストローブ=ユイレ作品ぐらいだろう。「私は生き残る貴方のために泣いてあげる」
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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姉妹が並ぶ。国に反旗を翻して戦死した兄の遺体を禿鷹の餌食とする、埋葬禁止の布告。アンティゴネーは兄を埋葬すると、砂詰めた壺を足元に置いている。反対する妹「女は男に逆らっては駄目」「もう頼まないわ」。そして当然のように遺体への砂かけは描写されない。壺だけなのだった。

円形スタジアムでは長老がコーラス、王は戦勝とバッカスの祝いを宣言するなか、誰かが兄の遺体に砂をかけたと報告される。鳥には見えない。長老「神の仕業では」王怒る。地面がじっと映されるなか、コーラスは「もっとも神聖な大地をも人間は掘り起こす」と嘆く。大地がもっとも神聖、という表現を初めて聞いて感じるものがあった。動植物や日光や水よりも、大地がさらに神聖、というのだった。

墓をつくってその前で泣いていたとアンティゴネーは逮捕され連行されてくる。彼女は訴える。「人の掟は破れる。来世で私の益になる。貴方(王)は殺す以上のことはできない。血族を思うのは人の道」。王は常套句を吐く。「国が二分されれば外国に滅ぼされる。アンティゴネーは反論する。「人間的な秩序のためなら祖国は滅亡するほうがいい」。王の息子が助命を述べる。「国中に不満が満ちている」。コーラスは民に従えと進言する。

アンティゴネー「私は黄泉の国へ嫁ぐ」運命だと云う長老に反論して「運命だとは云わないで。王が左右しているのだから」「私は生き残る貴方のために泣いてあげる。人非人ばかり生み出すのなら滅びる方がいい」。いい科白。

子供に手を引かれた盲人の予言者が王の滅亡を予言する。「予言者は金を貰いたがる」「暴君は金を貰いたがる」という愉快な科白のやり取り。長老は王を追い込み、そこに伝令、終戦はウソ。アンティゴネーは首を吊ったと侍女の報告があり、王は兵士だった王子の上着を持って戻る。砂壺と同様の、上着のミニマムな小物使い。

競技場から外へパンしていい山が映されるラスト。戦争を記録せねばというブレヒトの言葉で終わる。冒頭のティンパニーが連打されワーグナーほかがパロディにされる無茶苦茶格好いい音楽はB.A.ツィマーマン「ユビュ王の晩餐の音楽」。俳優たちが去る背中をキャメラはフィックスで見送るブレッソン風の場面が多い。

(評価:★4)

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