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[コメント] 雨果の休暇(2011/中国)

少数狩猟民族、エヴェンキ族を記録。お母さんの息子溺愛の強度がもの凄くて圧倒される。事象は徹底して客観的に綴られ、映画だけでは製作者の中国移住政策についての見解が判り難いが、主張はご法度なのかも知れない。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







上海の傍、無錫市の学校に寄宿舎から通う息子ユィグォは映画中、興安嶺山脈周辺の内モンゴル自治区へ二度帰省する(ロシアとの国境で、エヴェンキ族はロシアにも住まう由)。

丸っこい母親は息子を抱擁して離れず、頬ずりして泣いて歓迎する。この溺愛の強度がすごい。11歳の少年は明るく対応するが、13歳になると反抗期の複雑さを示す。母はアルコール依存で、息子は意見し続ける。母は小さな馬のようなトナカイをたくさん飼っていて、これを生業としているようだ。トナカイに息子を乗せようとして失敗する件があり、息子は後継ぎになれないだろうと思わされる。彼は「いろいろ体験できた」と語っていて、族の風習には馴染んでいないと見受けられる。

この母の崇拝者という男が出てきて付き纏い、母がゾンザイに扱っているのがユーモラス。母はときどきエヴェンキ語を話し、字幕はつけられず、方言は判らないと崇拝者に云われている。母は太陽を讃え、息子の持っていたテープ聴いて北京の歌を唄う。映画の最後で母子は雪の上でサッカーをして、息子は10対0で負ける。いい息子である。酒呑むなと云って迎えの自動車で去って行く。

狩猟民族の歌が唄われ、首長の息子は小さな琴を口に咥えて弾いている。白壁に赤い屋根の新しい住宅が並び、空いている土地には雑草が繁っているが、狩猟小屋のような住まいも映される。逞しいオジサンはこの子には山の生活は無理だと云い、俺ならナイフ一本で原生林でも生きられるが、族は次世代には消滅するよと語る。首長は息子に族の発展のために大学へ進めと期待する。

「ユィグォのきゅうか」と読む。長編『オルグヤ、オルグヤ…』の続編の由。エヴェンキ族中国政府の移住計画により文化の消滅が危惧される由。こういう事情は、映画を観ているだけではよく判らない処がある。赤い屋根の住宅政策が成功しているようにも見えるのだ。下記は監督のインタヴュー。「中国政府の移住計画により、エヴェンキ族の多くは狩猟を規制され、政府が用意した新居住区へと移り住まざるをえなくなりました。しかし、生活環境が大きく変わって、生きる目的を失い、絶望や不安を紛らわせるために、お酒で気持ちを紛らわせる人も少なくなった」と語られている。

http://www.webdice.jp/dice/detail/3272/

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