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[コメント] オトン(1969/独=伊)

地縛霊、精霊を呼び出す現場主義史劇の初作。演じられるローマの廃墟から見下ろされるクルマの行列を、映画は隠そうとせずむしろ積極的に画面に取り込む。これこそが精霊だと示すかのようで、観客は古代と現代をまたぐ処に強制的に遍在させられる。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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奇怪な時間感覚。クルマのクラクション一発で開巻という冒頭が格好いい。時代劇で背景に電柱が見えても「オトンだ」と応えればいいのだ。実際、本作は歌舞伎や新派劇に近い。ハリウッド的リアリズムを相対化する先祖返りの視点がある。

話の筋は映画内で完結しており、これまでに比べてたいへん判りやすい。暴君ネロなき後の跡目争い、恋と国政の三角関係。「私たちは神と人に拠っている。危険な命令は人から来る」と姫の運命が語られる。ストローブ=ユイレはいろんな史劇を撮ったが、パヴェーゼのように、危険な命令は神々から来るほうが常識外れで私は好み。コルネイユは古代ローマに託けて当時のフランスの独裁政治を風刺しているらしく、本作はシリアスな物語である。

演出はすでに朗読劇だが、アクションはまだ多少ある。やたら歩くのをキャメラが背中から追いかけたりする。「俳優はフランス語の不得手な素人の早口言葉」らしい。監督は、言語が息を吹き返すのは外国人がその言語と格闘するときだ、という格好いい回答をインタヴューで残している。私には残念ながら豚に真珠、その辺のニュアンスはまるで判らなかった。

古代劇の衣装も本作から採用される。赤白の強調が格好いい。オト(と字幕が出る)を演じるアドリアーノ・アプラはエリック・アイドルみたいな顔だった。自然の音が作劇とは関係なく並列されるのも本作が初めで、ここでは蝉がガンガンに鳴いている。

以下、専門書より。原題は「両の目はつねに閉じようとしている訳ではない」。副題は「おそらくいつの日かローマは自分の番を選ぶことができましょう」で、いずれも科白から取られている。撮影場所はパラティーノの丘。オトはここにあった宮殿で暗殺により帝位につき、三か月後に敗戦、自殺に追い込まれた。第二次大戦で反ファシストが武器を隠していた洞窟へのズームインがある。16ミリ撮影。

(評価:★4)

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