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[コメント] 学生心中(1954/日)

大暴投だが力一杯の投球なのは判る類のメロドラマで、宮城野由美子のお多福顔で全ては許されてしまう。彼女の衣類を嗅ぎまわる金子信雄のフェチ描写は今観ても衝撃的、久保新二かと思った。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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80年代の売れないアイドルみたいな宮城野がとってもいい。老いも若きも男性客は彼女目当てで観る映画なんだろう。アイドル映画の側面はきっちり守られた作りで、『純情二重奏』みたいな歌の古臭さも愛してしまえば味がある。モンペ姿からイブニングドレスまで、お約束の衣装のとっかえひっかえもとてもよろしい。当時の卓球のフォームってああいうものなんだろうという発見があった。室内競技なのに何でサンバイザー被るのだろう。

親の三角関係に借金の肩代わりの結婚に失明と、メロドラマの負のスパイラルが叩き込まれており、描写不足で内実を伴わないが密度だけはやたらと濃い。鰐の着ぐるみ着るバイトして大学に残るよう教授に云われる織本順吉など、小説の筋をなぞっただけになってしまった。大学行けなかった金子もそうだ。幸不幸を揺れ動く人物像が折り重なり、大暴投の感想を巻き起こしている。

足摺岬』と同年出演の木村功は病弱学生がハマり過ぎなほどハマっている。山小屋のクライマックス、小児麻痺の女の子の人形は美しいのだが、冒頭のダム開発に引っかけたよく判らない人間賛歌の詩を、その場にいなかった宮城野と一緒に口ずさむのはおかしかろう。そしてふたりは遭難したのであり「学生心中」な報道はイロニーを漂わせているはずだがこのニュアンスも不発。

ふたりのデートにタクシー乗り込んで突入しようとする好演の遠山幸子が収束にいないのも片手落ちと思うし、木村と遠山は親戚であり結婚できるのだろうかという素朴な疑問も判らず仕舞い、何やら晴れがましいラストは唐突で無茶苦茶強引な終わり方である。こんなんでいいのだろうか。

珍しく悪役の陰翳のある宇野重吉が良かった。森永監督日活復帰第1作とのこと。

(評価:★3)

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