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[コメント] ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ(2015/米=仏)

かつてのウルトラ客観的冷徹さは薄れ、議論への深入りは映画のスピード感を減じているのだが、本作の意義はそのようにして旗色鮮明に多様性に寄り添う姿勢にある。だからこれでいいのだ。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







そういう意味で一番ワイズマンらしいと感じたのは鶏の解体作業。その他、コインランドリーで開かれる民族楽器のコンサートとか、行きずりの小母さんと祈る道路清掃ボランティアとか、サッカー勝利の狂乱が路上に展開され補導に至る件とか、短尺で挿入された断片には往年の冴えが漲っている。路上描写のインサートでリズムをつくる作法もいい。

本筋は三つのパートがあった。LGBTコミュニティはユダヤ教が支援しているのが興味深い。これは成功例として讃えられる。コロンビア・コミュニティは、砂漠を15日間さ迷った娘の報告をする長い告白が心に残る。本作のクライマックスだろう。「ここには警察も移民局もいません」なる冗談が彼等の状況を伝えてくる。トランプ政権誕生前の作品である訳だが、移民への敵対政策の下、このコミュニティがどうなったのか心配になる。

もうひとつ、都市再開発で退去させられる商店主を支援するコミュニティの件は、土地投機でマイノリティが排除されかけているジャクソンハイツの現状を語って雄弁であり、日本も変わらないと思わされる(投資家は地主を圧迫し、地主は店子の賃料を引き上げざるを得ないように仕向ける、という手法)。

この本筋はしばしば長広舌になり、ワイズマンらしい映画のリズムを乱してしまっている。しかし興味深いのもまた、これらの長広舌なのだった。色んな切り口でコミュティ、中間団体(老人ホームまで記録される)の大切さを説いているのが印象に残った。

(評価:★4)

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